【連載】素材を知る旅〜真のラグジュアリーを求めて【全10回】

オーガニックコットンを選ぶ理由を探して 〜インド・コットンスタディーツアーに参加して

A Picture of $name 寺本恭子 2014. 11. 10

インドは、コットンの一大産地。先日、世界の子どもを児童労働から守るNGO・ACE(認定NPO法人)主催の「インド・コットンスタディーツアー」に参加し、実際にインドを訪問しました。そこでは、農薬被害・児童労働問題・カースト制度による格差問題……いろいろな問題が絡み合っている現実と、それを改善しようと頑張っている人たちの姿がありました。今回は、そこで見たこと・感じたことをレポートいたします。

遺伝子組み換え種と農薬使用の現状

現在インドでは、他の国同様ほとんどが「コンベンショナルコットン」の栽培地となっています。「コンベンショナルコットン」とは、直訳すると「従来のコットン」という意味で、「オーガニックコットン」の対義語のように使われますが、「遺伝子組み換えの種と、農薬を使用しているコットン」を指します。


2年前に訪れたテキサスのコットン農場では、一軒の農家が広大な土地を持ち、機械資材・農薬・肥料などの資本を大量投下し、面積あたりの収穫量を向上させる集約農業を行っていました。この場合、摘み取り作業は機械で行いますが、葉っぱが入り込まないよう(コットンが葉汁で緑に染まると品質が落ちるため)枯葉剤を上空から撒くなどするため、多量の農薬が大地に染み込んでしまうことが大きな問題となっていました。

一方インドの農場は、小さい土地を持つ農民が一つの村に何十人もいます。枯葉剤を撒くことはありませんが、除草剤・防虫剤などの農薬や、化学肥料をたくさん使用する中、摘み取り作業など人々が自ら体ひとつで作業をします。彼らは、遺伝子組み換えの種しか手に入れることができませんし、さらにはセットで農薬も買うことになります。なぜかというと、「これを使えば収穫量が上がって儲かる」という説明を受けるうえ、手元の資金が足りないために、種や農薬の費用を前借りできるシステムに飛びついてしまうのです。

確かに、遺伝子組み換えのコットンは背が高く、一枝に幾つものコットンボールが付きます。しかし収穫量が増えたぶん、水や農薬も多く使用しなくてはなりません。また水撒きは雨水に頼っており、収穫量が天候に左右されます。そうして思ったように利益が出ず、借金が返せなくなり自殺に追い込まれる人も後を絶ちません。インドでは自殺をすると、政府からお見舞金が出るそうで、主は残した家族のために自殺をして借金を返済するケースもあります。

児童労働問題

「児童労働(Child Labor)」という言葉をご存知でしょうか? 一般的なお手伝いやアルバイトなどの「子どものお仕事(Child Work)」とは区別され、その判断基準のキーワードとして、「教育を妨げる」「子供の健康的な発達を妨げる」「有害危険なもの」「搾取的である」があります。このうち一つでも当てはまると児童労働とみなされ、ガーナのカカオ栽培やケニアのコーヒー栽培など、さまざまな仕事に従事しています。現在、世界の子ども(5〜17歳)のうち、9人に1人(10.6%)の子どもたちが児童労働に従事しています(ILO, “Marking Progress against Child Labour” 2013)。中でもインドでは、5人に1人が児童労働をしており、特にコンベンショナルコットンの畑では、多くの子どもたちが学校に行かずに働き、綿花の受粉作業を中心に行っています。

コンベンショナルコットンの畑で、受粉作業をする11歳の女の子。本当は学校に行きたいと、涙を流していました。(筆者撮影)

コンベンショナルコットンの畑で、受粉作業をする11歳の女の子。本当は学校に行きたいと、涙を流していました。(筆者撮影)

今回ツアーで訪れたマハブブナガル県のナガルドーディ村は、以前は非常に児童労働が多かったのですが、NPO等の活動により、ほとんどの子どもたちが学校に通えるようになった地域です。彼らは、児童労働をしている子ども一人ひとりの名前と住所を聞き、家を訪問し、親を説得し、問題点を聞き、解決方法を考えるという、非常に根気のいるやり方で、村の生活を変えていました。

以前、児童労働をしていた子どもたちや、その親たちから話を聞くことができました。なぜ親は、かわいい我が子を学校に通わせずに働きに出すのでしょうか? 

第一に、この地域の親たちは自らも学校に行っておらず、学校がどのようなところなのかも知りませんし、教育の意義も理解できません。第二に、暮らしが経済的に苦しく、少しでも収入を得るためには子どもにも働いてもらわないと立ち行かないのです。中には「私は学校へ行きたい」と親に抗議をする子どももいたようですが、「それでは、どうやって食べて生活していくのだ」と親に説得されてしまったそうです。農薬の撒かれた畑で毎日仕事をし、体調が悪くなることも少なくなく、農薬が原因と診断された血液の癌で命を落とした子もいます。

同時に、小学校も訪問しました。以前は児童労働をしていた子どももたくさんいました。でもいまは、学校に来て勉強ができることが楽しくて仕方がないそうです。みんな笑顔で、瞳が輝いていました。ご両親も「働きに行け」とはもう言わず、「もっと勉強しなさい」と言ってくれるそうです。子どもの健全な成長を見て、親の意識も変わってきているのですね。つくづく、子ども時代は学びの時期なのだと実感しました。

コンベンショナルコットンからオーガニックコットンへ

児童労働による弊害や、農薬による健康被害が農家の間で認識されつつある中、インドでもコンベンショナルコットンからオーガニックコットンへ切り替えようとしている人たちがいます。もちろん、児童労働も行いません。それですでに実績を上げている会社を、今回見学することができました。

オーガニックコットンへの切り替えは、とても大変です。まず意識の高い紡績会社等が、自分たちがそのコットンを買い取ることを前提に、契約農家を一軒ずつ説得します。しかし農家にしてみると、頭ではオーガニックの方が良いと分かっていても、未知の世界なので不安で仕方がありません。いままで使っていた化学肥料を使わずに、本当にコットンが育つのだろうか? 収穫量が落ちて自分の収入が落ちないだろうか? ……そんな不安にていねいに向き合い、ともに前に進もうとしている同会社のような人たちの熱意に触れ、切り替えに挑戦する農家の人たちも現れているようです。
 
オーガニックコットンの認証を受けるには、最低でも3年間は土に農薬や化学肥料を撒いてはいけません。有機栽培に変えても、すぐに認証を受けられるわけではないのです。その間、農家の人々の有機農法の技術も軌道に乗せていかなくてはなりません。私たち消費者も、切り替えの難しさを踏まえ、温かく見守る必要があることを知っておかねばなりません。インド全体で見ると、オーガニックコットンの収穫量はまだ5%程度です。しかし、地道に成功例を作っていけば、きっと少しずつ広まっていく予感がしました。

以前児童労働をしていたという女の子。いかに生活が変わったかを話してくれました。

以前児童労働をしていたという女の子。いかに生活が変わったかを話してくれました。(筆者撮影)

消費者としての選択

よく友だちに、「オーガニックコットンって、何が良いの? 肌に良いの?」と、聞かれます。いくら農薬を使用して作ったコットンも途中で何度も洗うので、最終製品にはほどんど農薬が残らないと聞いています。オーガニックコットンが肌に良いかどうかも、その感覚は個人個人違います。

それでも、オーガニックコットンを選択することで、オーガニックコットンの需要をアピールし、少しでも大地に染み込む農薬の量を減らし、微生物を甦らせ、児童労働を減らすことにつながるかもしれません。私にとって、それは決して慈善事業ではありません。自分の庭に農薬を撒きたくないのと同じように、自分や自分の子どもたちが住む地球に農薬をまいてほしくありません。世界は少しずつつながっています。不自然な生態系の中に住みたくありませんし、私は自分の子どもが健康でいてほしいからこそ、世界中の子どもたちが健やかであってほしいのです。

オーガニックコットンやオーガニック製品を選択することは、すぐに何かに効く特効薬のようなものではありませんが、回り巡って、自分を幸せにしてくれるものだと思っています。そんな思いで、私は今日もできる限りオーガニックコットン、オーガニック製品を選択しています。

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