2011年10月14日から2012年2月12日までの間、カナダ・バンクーバーのブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)人類学博物館で、広島の被爆をテーマに撮影した写真展が開催されました。これは、日本を代表する女性写真家の石内都によるもの。2007年に撮影のため初めて広島を訪れて以来毎年撮影している写真の中から選んだ計48点が展示されました。
被写体は被爆し亡くなった人々の遺品たちーー花柄のワンピース、水玉のブラウス、テーラーメイドの背広、壊れたメガネ……。
「ひろしま 石内都・遺されたものたち Things Left Behind」は、その模様を日本映画の字幕翻訳家でもあるアメリカ人女性のリンダ・ホーグランド監督が1年以上にわたって密着したドキュメンタリー。「広島、長崎の被爆を語り継ぐために、芸術ができることは何か?」ヒロシマがいま世界に投げかける普遍的意味を、あらためて問いかけてくる一作です。
リンダ監督は、作品への思いを次のように話しています。
Q. どうしてこの作品を作ったのか?北米の、特にアメリカ人たちに「広島」を直視してもらうことが本作を作った目的です。現に、いまでも「原爆投下は正しかった」と考えているアメリカ人はたくさんいます。パキスタンやアフガニスタンで正義の名の下に戦争をやっているように、アメリカには正義のためなら人を殺してもいいという神話があるのです。その根深い神話と戦うには”美しいワンピース”しかなかった。アメリカではどんなにリベラルな人でも、広島、そして戦争についての正面玄関は閉じられています。だから私は勝手口を探すしかありませんでした。正義のために人を殺すべきだという幻想はロジックではない。だからこちらも理屈じゃないもので対抗するしかないのです。
Q. 印象深かった展覧会の感想は?私が一番恐れていたのは「戦争は悪い」という社会通念的なコメントでした。ですから、写真展の来場者の中から、あきらかに石内さんの写真自体に魅了された人だけに声をかけました。例えば、一番気に入ったのは、水玉のブラウスの写真だと言った少女は、その理由を「水玉が好きだから」と答えました。「この水玉の服可愛いな、欲しいな」と思ってくれたのかもしれません。遺品のクシの写真が一番好きだと言った女性は、自分の両親の思いでを語ってくれました。美しいものを見れば、人は美しい何かや大切なものについて語りたくなる。私が必要としたのは、啓蒙的なコメントではなく、石内さんの写真によって呼び起こされた来場者の個人的で主観的な思いや物語なのです。
[引用:http://www.thingsleftbehind.jp/]