【連載】素材を知る旅〜真のラグジュアリーを求めて【全10回】

タネから知る「オーガニック」の意味

A Picture of $name 寺本恭子 2014. 8. 4

いまから約3年前、有機製品専門の展示会「BIOFach JapanオーガニックEXPO」の会場で知り合ったオーガニックコットン生地会社の方に、オーガニックコットンのあれこれを詳しく伺ったことがあります。

お話の最後に、「寺本さんも、今後オーガニックコットンのことを考えて行くのであれば、農薬のことだけでなく、タネのことに関心を持ちなさい。タネは大切です」と助言してくださったのが、とても印象的でした。「なぜタネなのか?」ーーそれ以来、私はタネのことが気になっていました。

タネとオーガニック。その点と点がつながったのは、2012年6月に愛読している雑誌「THE BIG ISSUE JAPAN(192号2012/6/1)」の特集記事「タネから考える食べ物の未来」を読んだとき。

私はそれまで、スーパーの野菜も、身近なタンポポと同じように、花を咲かせ、タネを付け、それをまた植えて、再び芽が出て花が咲いて……これを繰り返しているのだと信じていました。理科の授業でそう習ったし、それが自然で当たり前でしょ?

ところが、私が「当たり前」と思っていたのは「固定種」呼ばれるもので、現在はとても少なく、ほとんどの野菜は「F1種」と呼ばれるタネからできたものだと知り、ショックを受けました。

Some rights reserved by Peter Schauer / Via Flickr

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「F1種」とはどんな種? メリット・デメリット

F1種とは、性質が異なる2種類の親品種を掛け合わせて作り出した雑種第一代のこと。メンデルの法則にあるように、雑種の一代目には、両親の対立遺伝子の優性形質だけが現れ、見た目が均一に揃います。また、系統が遠く離れた雑種の一代目には「雑種強勢」という力が働いて、生育が早まったり収穫が増えたりします。この2つの原則を応用して、均一で揃いが良く、生育スピードが早いという利点を持ったタネが人工的に作られました。

F1種の作り方は、いくつかあるようです。自家受粉する作物が未熟なうちに雄しべを取り除いてしまい、成熟したときに他の花粉をつけるという「除雄」。他家受粉の植物を二酸化炭素濃度を上げることで自家受粉させ、その後別品種と交配させる「自家不和合性」。偶然的に雄しべがなかったり、雄しべの先の花粉を入れる袋のやくがないい株を見つけ、その雌しべに別の雄しべをつける「雄性不稔利用」などです。

こうして作られるF1種ですが、その利点を持った作物ができるのは一代目だけ。二代目からは親と同じようには成長せず、単なる雑種に戻るため、F1種の作物を育てるの農家は、毎年タネを買わなければなりません(そもそも、種苗法により、特許を取られているF1種の作物から自家採種することは禁じられています)。また、工業製品のように予定どおりの納期に収穫でき、形も揃っていて箱詰めしやすいF1種の作物は、もしも病害虫が発生すると全滅してしまう可能性があるため、農薬が欠かせません。自然の中で、何世代も命をつないできた固定種に比べ、F1種のものはどうしても逆境には弱いのかもしれませんね。

新たな品種を作る技術はすばらしいと思う反面、自然には起こらない現象を人工的に作り上げるのは、やっぱり不自然な気がしてならないのです。しかしいまではすっかり馴染みのあるキャベツやレタス、ブロッコリーも、実はみんな最初はケールだったといつかの新聞で読みました。長い時間かけて、人間はいろんな品種を作り上げてきたのですね。

オーガニックコットンの種。この中から優れたものが選別され、次の世代へと命を引き継いでいく。一方で、GM種は、全て種会社に返却しなくてはいけない。〈NO.5「テキサス オーガニックコットン農場視察 体験記」より、提供:(株)アバンティ〉

オーガニックコットンの種。この中から優れたものが選別され、次の世代へと命を引き継いでいく。一方で、GM種は、全て種会社に返却しなくてはいけない。〈NO.5「テキサス オーガニックコットン農場視察 体験記」より、提供:(株)アバンティ〉

F1種と固定種では循環するしくみも違う

私は昨年の春、あるタネの講習会に参加し、実際に固定種を自然栽培(無農薬無肥料栽培)している畑を見学して、一般の畑との土の違いを学びました。自然栽培の畑の土はフカフカで温か。農薬を撒いていないから、必要な微生物や土壌生物がちゃんとバランスよく生きていているのです。固定種の根は、F1種のものよりもずっと長く広く張るため、広範囲から栄養分を自力で吸い上げることができます。だから肥料もいらないのだと言われ、なるほど納得しました。

F1種でも有機栽培の規定に沿って育てれば、日本ではオーガニックと認められますが(欧米では認められません)、F1種でオーガニック栽培をするのは、とてもたいへんです。だからといって、根が短いのを補うように肥料を与えて作ると、今度は地中の窒素が過多となり、余った窒素はその後亜硝酸窒素という体に悪いものに変化し、地下水に染み込んで行きます。

結局、タネの時点で不自然な操作を人間が加えると、そのしわ寄せが再び人間に周り巡ってくるのです。私たちの健康だって、日頃の食事や運動などの外的要因だけでなく、生まれ持った遺伝子によるところもあるでしょう。それなのになぜか、オーガニックフードが人気の昨今も、そのタネがどんなものだったか興味を持つ方は少ないように思います。

さらに、遺伝子組み換え種へと進化したいま

そして時代は、遺伝子組み換え種(GM種)へと進んでいます。私は昨年、「モンサントの不自然な食べ物」と「世界が食べられなくなる日」という2本のドキュメンタリー映画を見て、愕然としました。

遺伝子組み換え種は、大量の農薬とセット販売されます。セットの除草剤を散布すると、他の雑草は枯れてもその作物だけは枯れないように、遺伝子が組み換えてあるのです。「遺伝子組み換え種を使う→農薬が撒かれる→地中の微生物が死んでしまう→栄養は肥料で補う→地中が栄養過多で亜硝酸窒素が溜まる……」と、またもや母なる大地を人為的に汚してしまいます。

豊かな大地と固定種があれば、本来十分なはずなのに、なぜこのような作物の作り方になってしまったのでしょうか? それは、「いつでも同じように美味しいものをたくさん食べたい」という私たちの単純な欲求がまずあり、それに応えるように、企業は自然をコントロールする技術を開発し、農家もそれを選択していったのだと、私は考えます。私たちが、地中の微生物の有り難さや固定種の大切さをもっと知っていれば、現在の地球の様子は違っていたかもしれません。

現在のコットン栽培の約80%は、遺伝子組み換え種だと聞いています。オーガニックコットンは、全て固定種を使用します。オーガニックコットンを選択することは、大地に注がれる農薬の量を減らすだけでなく、固定種を未来につないで行くサポートにもなるのです。

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