ユナイテッドアローズ(以下、UA)が2014年春夏シーズンからスタートした新レーベル「TÉGÊ UNITED ARROWS(テゲ ユナイテッドアローズ;以下、TÉGÊ)」。これは、国連諸機関の一つであるInternational Trade Centreのプログラム「Ethical Fashion Initiative(以下、EFI)」と組んでスタートしたブランドだ。
EFIは「NOT CHARITY, JUST WORK」というスローガンの下、貧困国と呼ばれる各国の女性たちに、現地のリソースを生かした手仕事で雇用を創出。「MARNI」や「Vivienne Westwood」など、世界の名だたるブランドとのビジネスを通じて、エンパワメントを促している。
日本で初めてそのものづくりのパートナーとなったのが、「ユナイテッドアローズ」。「もともとアフリカンビーズや色鮮やかなテキスタイルなど、アフリカのものづくりに興味があり、現地でやってみたいと思っていた」と、同社上級顧問の栗野宏文氏は話している。
ものづくりへの思いが重なって生まれた「TÉGÊ」
その栗野氏の下に、EFIから打診があったのは一昨年のこと。「あくまで良いものを作って、作る人・買う人をハッピーにしたい」というEFIの理念に賛同した。さらにいえば、「すてきなモノを世に届ける」という理念を持つ同社にとって「エスニック」は重要なファッションクライテリア。栗野氏は「エスニックとは、民族が持っているカルチャーが美術工芸品やファッションになったもの」と説明するが、今回の協働は、すでにEFIが現地に持つインフラを用いて、直接アフリカでUAの目指すものづくりができるチャンスともなった。
現在、ケニアではネックレスやバッグなどを製作、ブルキナファソではテキスタイルを作り、それを日本で縫製してアパレル品に仕立てている。
しかし、途上国でのビジネスにつきものなのは「納期遅れ」。現在もブルキナファソから日本への生地の到着が遅れており、5月頃に販売を目指していたアパレル品も、7月の販売開始になる見込みだ。春夏/秋冬のシーズンを強く意識するファッション業界では、納期遅れは大きな問題となり、それが途上国とのものづくりを躊躇わせる一要素にもなる。しかし、「UA」ではそれを壁と捉えていないようだ。
「TÉGÊ」を始めるとき、『春夏もの/秋冬もの、という考えは止めよう。入ってきたときが納期だ』とチームで話しました。そもそもいまのファッションの2シーズン制は、限界に来ていると感じていました。冬は3月まで寒いし、夏も10月までは暑く、天候もおかしい。でも「TÉGÊ」なら、1年売り続けられます。これらスーツは7月に出しても10月くらいまでは十分着られるアイテムですし、今後も「TÉGÊ」の商品は、シーズンレスなものになるだろうと思っています。
とはいえ、「TÉGÊ」を成長させるには「納期・品質管理」がカギであるとも。現地のEFIスタッフと、リードタイムについてしっかりコミュニケーションを取って、今後進めていくことが重要だと説明する。
同じゴールを持つ同志としてものづくりをする
ブルキナファソで発注したオリジナルテキスタイルも、「UA」チーム・現地のEFIスタッフと織り手の三者が、ダイレクトに話し合って作っている。栗野氏が「色のセンスがばつぐんに良い」と絶賛する現地の織り手が持つ生地見本は大量。それらを見ながら、必要に応じて持参したカラーチップや生地見本を見せるなどしてアレンジを依頼する。その際、通訳やコーディネーターの力は極力借りない。
拙い英語でも、直接当人どうしで話すほうが、思いが伝わります。バンバラ語しか話せない人と僕が話すにしても、言葉としてのみ正確な通訳を介するよりも、身振り手振りで話したほうが思いは伝わるでしょう。なぜなら、織り手の方々と僕らのゴールはいっしょだから。言葉の問題よりも、同じゴールを持っているかのほうが大事だと思います。
カルチャーのある質の良い商品を世に届け続けること。「エシカル」で注目される今回の取り組みは、同社にとっては「良いものを作る」という同じゴールを目指す仲間たちと、互いに敬意を払い合って、その民族のカルチャーをアイテムに込めるという、いつものものづくりのかたちなのだ。
今後も、年に1回は同国らを訪ねて次のネタを考えていくとともに、EFIが取り組んでいるハイチやパレスチナなどにもものづくりの幅を広げていきたいという。
それぞれの地域で困っている人がいて、それぞれの地域に代々続いているハンドクラフトがある。それが僕らの求めているものに合うならどこへでも行きます。
栗野氏が考える次なるファッション消費の潮流
あらためて栗野氏とは、UA創業メンバーの1人であり、政治経済・音楽・映画・アートなど包括的に時代の潮流(ソーシャル・ストリーム)を捉えるマーケターとして、国内外で高く評価されている人物だ。現在は、同社のクリエイティブディレクション担当上級顧問を務める。そんな同氏は、今後のファッションの価値概念を次のように読み取っている。
僕は、今後モノを買う基準になるのは「カルチャー」であると感じています。紐解くとすなわち、①クオリティ、②クリエイティビティ、③エシカルの3つです。
近年のファッションは「流行っているから」「話題の人が着ているから」といったマーケティングで売れてきました。しかしそれはもう限界でしょう。人がモノを買うにあたり今後判断基準になるのは、「素材・作りが良いよね」「こんなもの見たことない!」といったこと。そしてそれが「公害につながっていない」ことや「児童労働に関与していない」といったことも、判断基準の一つになるでしょう。世界の動きを見ても、間違いないと思います。
だからこそ栗野氏は「まじめに服とお客さまに向き合い続けてきた人にとっては、今後はやりやすい時代になる」と感じているという。「良いクオリティのものを良いサービスで売る」というのを基本に据え、ずっと守ってきた同社なればこそだ。
「UA」で扱うものはカルチャーありきのものばかりです。例えばコットンの質とか縫製の質……好きな言葉ではないですが「うんちく」のあるものをずっと売り続けています。
UAが生まれて25年。その間、ファッション消費はめまぐるしく変化してきた。しかしどんな時代にあっても、UAは常に変わらず「クオリティ」というメッセージを発信してきた。それゆえ、人々に支持され続けてきたのだ。
確かに、ファストファッションが興隆したことによって、社会全体でファッションを買う姿勢が変わったとはいえると思います。しかし、僕らのものづくりを理解してくれる人を増やす努力というのは、あくまで僕らが努力すべき部分。ファストファッションが増えたから分かってもらえない、という考えに陥ったら終わりです。
僕らのメッセージをいかにお客さまに伝えるかは、店頭が大切で、販売スタッフはメッセンジャーです。販売スタッフが我々の思いを理解してくれている限り、ちゃんとメッセージはお客さまに伝わります。
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