「施し」で寄付や支援をする時代は終わり 〜NPO・バーンロムサイが見てきた15年

A Picture of $name HITOMI ITO 2014. 7. 31

タイ・チェンマイにあるエイズ孤児たちの生活施設「バーンロムサイ( BAN ROM SAI )」。ここは、両親をエイズで亡くし、自分たちもHIV/AIDSに母子感染した孤児たちの生活施設です。ジョルジオアルマーニジャパン社の資金協力を得て、1999年12月にタイ北部のチェンマイ市郊外に開設され、2014年7月の現在、3歳から18歳まで30名の子どもたちが暮らしています。

設立から15年。振り返れば激動のときでした。開園した初めの頃は、根強い偏見や差別、抗HIV療法もなく、子どもたちが次々に亡くなるという苦い経験もありました。しかし現在、バーンロムサイは地域社会に溶け込み、さらに頼りにされるようにもなってきたといいます。

バーンロムサイが見てきた15年を、設立された母親である創設者・名取美和さんとともに、立ち上げのときからサポートしているNPO、バーンロムサイジャパン代表・名取美穂さんにお伺いします。

名取美穂さん

名取美穂さん
1969年に東京で生まれ、すぐに渡独。3歳で帰国し、幼小中高と東京ドイツ学園に通う。ドイツの大学でコミュニケーションデザインを学んだ後、デザイナーとして広告代理店で働く。93年に帰国し、スイスのファブリックメーカー日本支社のマーケティング部に勤務後、96年フリーのデザイナーとして独立。飲料や化粧品などのパッケージデザイン、グラフィックを手がけながら、バーンロムサイでプロダクトやゲストハウスなど各種デザインを担当。2011年からNPO法人・バーンロムサイジャパン代表として、日本での活動に従事。

―― 1990年代から2000年代にかけて、HIV/AIDSを取り巻く環境は劇的に変わりました。設立当初、タイではどういった状況でしたか? それから15年経ちましたが、現在の状況はいかがでしょうか?
1996年頃、知人の紹介でタイのHIV/AIDSの現状を見に行きましたが、当時はHIV/AIDSに対してのサポートも理解も少なく、ベッドにずらりと並んだ野戦病院みたいに寝かせられている状態。人手も足りず、亡くなった方をそのまま放置するような状況も珍しくありませんでした。正しい知識がない中、誰もが恐れ、感染した子どもたちが柵で隔離されていたりなど、初めて見た現実にショックを受けました。

タイでは、コンドームの使用とHIV/AIDSに関する情報を発信する大々的なキャンペーンが行われたこともあり、いまはだいぶ変わってきています。性産業に携わる人をはじめ、多くの人々が意識するようになりましたし、むやみやたらに恐れるような状況は改善されました。なにより劇的に変わったのは母子感染で、タイでも医療技術が発達して現在はほとんど起こりません。ただ日本と同じく、セックスの低年齢化などの影響で若年層の感染が増え続けている側面もあり、決して下火になったわけではありません。

―― 一方、それを支援する側としての日本ではこの15年、寄付やチャリティといったことに対して、どういった変化がありましたか?
大きく変わったと思います。バーンロムサイを始めた1999年当時は「NPO? 何それ?」という方も少なくありませんでしたし、チャリティやボランティアは「暗い、重苦しい、つらそう」というイメージでした。「『かわいそうな人だから』『社会的弱者だから』寄付をする」という意識も強かったです。

それが2000年代半ばくらいから、暗いイメージがなくなってきました。NPO/NGOでも「明るいイメージ」で打ち出す団体も増えてきましたし、「良いなと思って買ったものが支援になる」というメッセージの発信も、メジャーになってきています。

震災以降、海外のNGOに対する寄付額は減少しており、大口の寄付も減っています。一方、学生さんによる1000円前後の小口の継続的な寄付や、夏や年末のボーナス時にまとめてお買い物をしてくださる方が増えたように感じています。「良いことをしたい」という意識が高まっているように感じます。つまり、施しという意味で寄付をする時代は終わり、自分にも相手にもメリットになるような支援をする時代になったのだと思います。

―― それでもやはり、寄付を募るうえで活動の伝え方に悩んでいるNGO/NPOは少なくありません。バーンロムサイではいかがですか?
開園当初から、同情を誘うような子どもの写真・映像は使わないようにしていました。いまは実際、抗HIV療法の効果で子どもたちも見た目には元気で、寄付をする必要性が伝わりにくいというのはあります。災害支援などと比較し、継続を目指す私たちの事業にはそれほど緊急性はありませんし、結果もすぐに見えるものではありません。

しかし、みなさまのお陰で生られるようになった子どもたちは、一生毎日薬を飲み続けなければなりません。薬代や副作用のケアを含め、彼らが自立した生活を送れるようになるまでは継続的な支援が必要です。それをいかに分かりやすく伝えるかについては常に悩んでいます。

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