西荻窪駅を降りて徒歩2分。駅の横道を入ってすぐ、全国の福祉施設で作られた手仕事品のセレクトショップ「マジェルカ」はあります。
2011年9月にオープンして以来、ショップを開いた藤本光浩さんは、全国の福祉作業所と市場をつなぐ仲介人として一目置かれる存在。「マジェルカで扱ってほしい」という声は後を絶ちません。
これまでバラバラとあちこちで独自のバザーなどで売られていた福祉施設の商品は、ビジネスとして売られることは少なく、モノもその背景もうまく伝わっていませんでした。藤本さんは、見せ方や伝え方を丁寧に考え、ものといっしょに背景をさりげなくパッケージして、しっかり一般の市場まで届ける「交易人」なのです。そんな藤本さんに、「マジェルカ」を開いたワケ、「売る」ことの意味を教えていただきました。
「売る」とは本来、モノを通じて背景という付加価値を伝えること
「それまで福祉関係の仕事は一切していませんでしたが、やっている日々の仕事は、前職とそう変わらないと思います。もともと、手仕事の品が好き。それらには、大量生産品では決して生み出すことのできない「背景」という付加価値があるからです。販売や営業というと、俗っぽいことに見られがちですが、本来は、モノを通して文化を伝えたり商品を介して背景を伝えたりと、啓蒙活動に近いものだとずっと感じています」。
「以前は、飛騨高山に昔から伝わる工法で木材の家具・インテリア・雑貨などを作る会社に、企画営業職として務めていました。その企業の製品は、テーブル1つが50万、100万、200万とします。巷では、食卓用のテーブルは2〜3万で手に入る時代。なぜ、大金を払ってこのテーブルを買うべきか理解していただくには、その値段に値する価値を伝える必要があります。そこで例えば、『テーブルは、口に入れる食べ物を乗せて食べる場で、家族と朝昼晩と一日3回囲んで団欒する場。そういうものこそ、丁寧に作られたものに目を向けても良いのでは?』とお話していくことで、『なるほど』と、話が進みます」。
「だから販売や営業とは本来、背景という付加価値を伝える仕事。ただ商品を並べてお客さまが買ってくださるのを待つのではなく、作り手や背景にある伝えるべきものを、仲介役となって届けるのが役割だと思いますし、そのために商品がお客さまに働きかけられる店づくりをしています」。
「こんなに良いものを作っているんだから、もっと世の中に出していこうよ」
「バザーなどで福祉施設の商品をたまに見かけることはありましたが、質の良いものを見たことがなくて、あまり価値を感じていませんでした。深く調べたこともなかったのですが、漠然と『気の毒だから買ってください』というチャリティー的なイメージがありました」。
「興味を持ったのは、偶然でした。知り合いにバイイングの仕事を頼まれて商品を探しているとき、インターネットでたまたまおもしろい商品を見つけました。地場産の材料を使って、地元の工房で作っている木工製品だったのですが、これまで見たことのないようなデザインと形で一目惚れ。それで話を聞いてみたら福祉施設のものだった。いままで福祉施設でこんなに良い商品を作っているイメージがぜんぜんなかったので、『こんな良いものを作っているところもあるんだ!』と、純粋に驚きました。それでもっと調べてみると、おもしろい商品が他にも見つけられたんです」。
「さまざまな商品を見つけるうち、さらにじわじわと興味が高まってきて、実際に施設を訪問したり、福祉施設の商品を扱うショップを訪ねてみたりするようになりました。良いものを作っている施設とその作り手である障がい者の方々を知っていくにつれ、『障がいがある人たちが、こんなに良いもの作っているなんて、世の中の人はほとんど知らない。このままでいいの? こんなに良いものを作っているんだから、もっと世の中に出していこうよ』と思うようになりました」。
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