2014年4月、全国の福祉作業所で作られた手仕事品のセレクトショップ「マジェルカ」が、渋谷ヒカリエで障がい福祉施設商品の販売イベントを開催。2週間という期間で、約200万を売り上げました。
「福祉施設商品のバザーは、だいたい1日1万の売上なので、すごい」との発言が参加者の方からありましたが、渋谷ヒカリエからも「集客も売上もダントツ」と言われるほどだったといいます。5月18日、そのイベントの売上と売場の声をさまざまな角度から検証し、データから見える商品改善のヒントを伝えるセミナーが開催されました。
ここで「ただし」、と付け加えるのは「マジェルカ」の店長であり、今回の販売イベントを企画した藤本光浩さん。「今回はこの結果でしたが、場所・売場が違えば結果は全く異なります。倍の4週間という期間で今回と同じくらいしか売上を達成できないこともあれば、1日で50万を売り上げることもあります」。共同でセミナーを主催し、司会を務めるNPO法人ムイットボンの上田尚矢さんも、「売るのは一筋縄ではいかない。渋谷ヒカリエのイベントをモデルケースに、今日は『商品を開発すること、商品を売ること、その根底にある意味はなんだろう?』と、理解を深めていただければ」と、趣旨を説明してセミナーが始まりました。
売上金額ランキングと売上数量ランキングを比較
セミナーは早速、実際の売上に関する数字の紹介から始まりました。まず、売上金額ランキングと売上数量ランキングが紹介されました。
売上金額ランキング入りのアイテムたちは、販売個数は大きくなくても、しっかりと売上に貢献しています。ただし、他方の販売数量ランキングと比較すると、重複する商品は多くありません。この点について、「マジェルカ」スタッフの釜坂玲子さんは、このように説明します。
「販売数量が少なくても売上に貢献している商品があることに注目してください。売場では、こうした販売効率の良い商品に力を入れようと判断します。ポストカード(注:販売個数はダントツの1位でも、合計の売上ランキングには入っていない)のように、いくら数量が売れる商品であっても、売上が見込めない販売効率の悪い商品は、スタッフは積極的にお客さまにすすめません」
商品単価別に売上の平均額の分析を見ても、全体の商品構成の中でアイテム数は少なくても比較的高価格な商品が最も売上を積み重ねました。反対にアイテム数が多くても単価の低い商品は売上を積めていません。上田さんも、「999円以下・1000円台の価格帯の商品を作るのは、完全に『レッドオーシャン』。新たな商品を開発するときも、売場での動きや判断を想像しながら考えてみると活路が開けるのでは」と今後の商品開発に向けてアドバイスをしました。
似たような商品なのに、明暗くっきり! 商品力のヒント
決め手は商品力。でも商品力って、具体的にどういうことなの? 次に、はっきり売上で明暗が別れた商品を比較紹介しながら、商品力のヒミツに迫ります。
1. ヘアゴム対決
第一に事例として紹介されたのは、丸いフェルトのモチーフがついた2種類のヘアゴム。モチーフがお花状に5つ付いている事業所Aのものは700円。モチーフは1つですが、色鮮やかな台紙が目を引く事業所Bのものは500円と、価格もデザインも大差ありませんが、後者は1つも売れなかったそう。その理由を釜坂さんは売場の視点から、次のように話します。
「事業所Bの商品は一つずつ平置きして並べないと見えづらい商品で、カゴの中にガサっと入れて売ることができません。そこで平置きするのですが、500円の商品に大きなスペースは割けません。そこで6つを並べました。お客さまは、最終的には1つずつ吟味しますが、商品のかたまりをひと目見て、商品のボリューム感をなんとなく感じ取ります。かたまりでかわいく見えたのは、カゴ置きした花のタイプの事業所Aのほう。6つ平置きしただけでは、ボリューム感が生まれないのです」
2. パッケージ対決
次には、パッケージで売上が変わった例も紹介されました。NPO法人・ムイットボンのストールピンは以前、ギフト用商品として、花を型どった台紙の裏にメッセージが書けるようにしてありました。しかし昨年のある催事では全く売れず、結局販売個数も2点のまま、売場からほとんどバックヤードに下げられてしまったそうです。それが、最新のパッケージで「ストールピン」と商品名を記載したところ、渋谷ヒカリエではみるみる売れて売上ランキングに入るほどに。
その理由を釜坂さんはこのように説明します。
「前のパッケージのときよく言われたのが、『パッと見ていったい何なのかよく分からない。裏を見てやっとピンだと分かった』というご意見でした。この一瞬の戸惑いで買わないお客さまがほとんどでした」
上田さんも「おしゃれなパッケージだから売れるというわけではない。お客さまにとって『分かりやすいかどうか』が重要」とまとめます。
またそのほかにも事例を紹介しながら、売れた商品・売れなかった商品の違いのワケを解き明かしていきました。
売るというのは作り手・売り手・買い手のコミュニケーション
「売るというのは、ただ商品を並べてお客さんが来るのを待っていることではない」と、話す藤本さん。その藤本さんのもとには、「商品を作ったんですけど売れません。どうやったら売れますか?」という相談が後を絶たないといいます。「お客さまに売って使ってもらう、ということを考えないで作るだけ作るのは、結局作ることが目的になってしまっている。何のために商品づくりをやっているの?」と、藤本さんは問いかけます。
では売るというのは、なんなのか? それはとどのつまり「コミュニケーション」と司会の上田さんは最後に締めくくります。「売場はお客さまのためにあるもので、商品のためにあるものではありません」と、途中にも上田さんが話したように、売場はお客さまとコミュニケーションを取って、作り手とつなぐ場。商品は使ってこそ生きるものである以上、作り手もお客さまを理解しなければなりません。
そこで、作り手に代わってお客さまとのコミュニケーションを取る場や機会を多く持ち、その方法も知っている売場とコミュニケーションを取るでお客さまの声を知り、商品改善に生かし、さらに良いものを作り、売上につながれば、作り手も売り手もそしてお客さまもうれしい。そしてさらに売れていく……コミュニケーションを取りながら、三者に良い循環を生むのが「売る」という行為の本質なのだと感じます。
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