クリエイティブのカギは“多様性” 「PRe Nippon」の取り組みから考える「障がい者とのものづくり」の意義

A Picture of $name HITOMI ITO 2014. 5. 5

障がいがあって一般企業などで働くことが難しくて福祉作業所に通所する人々をものづくりに巻き込んで、継続的な工賃を提供できるビジネスモデルのファッションが少しずつ増えてきています。でも、一言で「障がい者を巻き込んだものづくり」といっても、なかなか具体的なイメージは湧かないのでは?

福祉作業所の問題解決と社会に価値を生み出す活動を目的に結成されたプロジェクト「PRe Nippon(プレ・ニッポン)」共同代表・羽塚順子さんの案内で、荒川区にある「荒川ひまわり第2(運営:社会福祉法人トラムあらかわ)」を訪ねて、実際にどんなものづくりをしているのか垣間見ることができました。

東京都荒川区にある福祉作業所「荒川ひまわり第2」

東京都荒川区にある福祉作業所「荒川ひまわり第2」

福祉作業所ってどんなところ?

「作業所」と一口に言っても、就労継続支援A型、就労継続支援B型、就労移行支援など、内実はさまざま。いずれにせよ、身体や知的機能もしくは精神の機能に障がいのある成人の人たちに、就労と労働を通じて心身機能の発達を図る場とされています。

作業所では障がいのある人が無理なく作業に参加しながら仲間とふれ合い、社会の人々と結びついていこうと日々活動しています。クッキーやパン、雑貨や小物など障がい者が働く福祉作業所ではさまざまなものが作られています。企業からの下請け作業もあり、実は身近なものが福祉作業所で作られているものも少なくありません。

下請け作業でチャコペンを発見。

下請け作業でチャコペンを発見。

作業所でのシゴトって?

「作業をいかに細かく分解できるのが福祉職員の腕の見せどころなの」と羽塚さん。荒川ひまわり第2のスタッフであり精神保健福祉士である髙橋智子さんも、このように話します。

精神障がいの特徴として「曖昧なものが苦手」というのがあります。例えば「だいたいこのくらいで縫ってください」というよりも、「3センチ幅に10針刺さるように縫ってください」と指示した方が、理解が得やすいです。そしてそのとおりに作ることができます。知的障がいをお持ちの方は、独創性を生かした芸術的な作業が得意な場合があります。それぞれの個性や強みを生かして一つの仕事を細分化し、その方に合った作業にする必要があります。


例えば、販路に乗らなかったB品の手ぬぐい用の生地をボウタイにした「Musubi-Tie(ムスビ・タイ)」の良いところは、たくさんの工程に分解できるところだそう。Musubi-Tieのリボン部分は、端を1本ずつ糸を抜いており、ミシン掛けが苦手な人には、その作業をやってもらえたり、そのほかにも接着芯を貼る作業、そもそも接着芯を切る作業をやってもらうことができたりして、いろんな人が関わることができるといいます。その意義を髙橋さんは、次のように説明します。

人には向き・不向きがあります。福祉作業所では、工程をなるべく細分化して、できるところに関われるようにします。最初から最後まで全部できる人も中にはいるかもしれませんが、その人一人だけができても意味がありません。実際に商品が売り出されたとき、仕事を通じて、社会に貢献していくことをなるべく多くの人に体験してもらうには、できるだけ多くの人がいっしょに喜べないと。

丁寧にアイロンがけをするのが得意な人、ミシンがけが得意な人……それぞれの強みを生かして仕事を割り振る。

丁寧にアイロンがけをするのが得意な人、ミシンがけが得意な人……それぞれの強みを生かして仕事を割り振る。

多様性あるものづくりが、クリエイティブで楽しい商品につながる

それぞれの強みを生かすことで、ものづくり全体の質を上げていく。Musubi-Tieのように素材がB品であっても、作り手が障がい者であっても、多様性あるものづくりの体制が、クリエイティブで質の良い商品を生み出すことにつながるーーそんなメッセージを発信するのが、編集者だった羽塚さんや平原礼奈(ひらばる・れな)さんが2013年1月に結成したプロジェクト「PRe Nippon」なのです。

代表的なアイテムが「ゲラメモ」。書籍を製作する過程では、原稿を印刷して著者・構成者・編集者が内容を確認する校正紙(ゲラ)が大量に使われます。後はゴミとして処分されるだけですが、年間で約8万点の新刊が出版されるいま、その量はとにかく膨大。そこで、手書きの赤字が入ったゲラの裏紙を再利用して、1冊のメモ帳にしたものです。

羽塚さんは、中でもとりわけ、社会的に立場が弱いとされる人々に仕事を生み出す商品づくりを「ウェルフェアトレード®」と名づけました。作り手として巻き込んだ施設で働く人に利益を還元するしくみで、質の良い商品のプロデュースを行い、施設に仕事を生み出している羽塚さんはこのようにも説明します。

商品を通じて「(福祉作業所で)こんな良い仕事ができるんだ!」と感じてもらいたい。それがフックになって、障がいがある人たちのことをもっと知ってもらいたいと思っています。違うと思っていたら実は同じなのだとか、こんな才能もあったのかと、発見してもらうツールになるはずです。

羽塚さんはさらに、「ぜひ作業所に遊びにきてほしい。初めて訪れる人たちは必ずインスパイアされています。一緒に継続したものづくりに取り組むクリエイターさんや企業さんが増えることを願っています」と話します。完璧な人・ものなんて一つも世の中にありません。それを認め合って生かし合うこと。そんな多様性のあるものづくりがクリエイティブでおもしろい商品づくりにつながり、結果的に多様性を楽しむ社会になるという好循環が生まれるのです。

PRe Nippon

Website: http://pre-nippon.com/index.html

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