Orsola de Castro(オーソラ・デ・カストロ)は、イギリスのエシカルファッションを牽引してきたパイオニア。1997年に古着やデッドストックのアップサイクルブランド「From Somewhere(フロム・サムウェア)」を立ち上げ、初めてアパレル産業の廃棄物の問題に声を上げた一人だ。ロンドンファッションウィークのエシカルエリアである「Estethica」の立ち上げにも参画し、そのキュレーターも務めているほか、アップサイクル/エシカルの専門家として、学生や企業にそのノウハウを教えている。
「もともとデザイナーとして『いらないもの』を使って何かを生み出すというのが、ユーモアがあって好きだった。環境的なことを考えてブランドを始めたわけじゃないの。やればやるほど深みにハマったというところね」と、振り返る。長らくイギリスのエシカルファッションシーンの真ん中で活動し続けてきた彼女に、今のイギリスのエシカルファッションシーンについて尋ねた。
―― 「アップサイクルの女王」と呼ばれていますが、アップサイクルやリメイクのコツはなんですか?
やぶれたり穴が開いたからって、その服が着れなくなったってことではないのよ。美しい穴、美しい裂け目ならそのままでも良いはず。あえてダメージ加工で破くことだってあるわけでしょう? 「侘び・寂び」の感覚がある日本人なら、特にその感覚が分かるんじゃないかしら? だからアドバイスがあるとしたら、まずは本当にその穴や破れを直す必要があるのか? と問うことね。
次に、「ファストファッションを買うな」「安い服を買うな」と多くの人が言っているけど、私は全くそう思わない。でも服を買うにあたって、私はたった一つだけルールを持っているのーー「その服を愛せよ」。あたしの一番のお気に入りのナイトドレスは「Primark(※プライマーク。激安衣料チェーン)」で買ったもの。でももう12年は着ているわ。
―― あなたのブランドではどうやって生地を調達していますか?
最初は、使用品も未使用品もどっちも使っていたけど、いまはスポーツウェアの「Speedo」、ニットの老舗「Johnstons of Elgin」などの企業と長らくパートナーシップを組んでいて、一定期間余っている未使用の生地を直接倉庫に行ってもらっているの。ほかには、使いたいものがあったところにそのつど尋ねているわ。
イタリアで生産をしていたときは国内での調達にしていたけど、いまはイギリスで生産していて、国内外にこだわらず調達をしているわ。「欲しいだけもらえる」という自由はなくて、ある中からもらうから量はまちまちね。
―― 「Speedo」のほか「TOPSHOP」とのコラボレーションも話題になったようですが、どのようにコラボレーションは実現したのでしょう?
「Speedo」の場合は向こうから声を掛けていただけたんだけど、「TOPSHOP」は長いこと話し合ってきていたのよ。同社のマーチャンダイジング・ディレクターとスリランカで知り合って以来話してきて、2回の「Reclaim to Wear」コレクション発表に結びついたの。「Reclaim to Wear」は、「From Somewhere」のブランドとは違う立ち位置のもの。企業にソリューションを提供するコンサルのようなもので、私たちはデザインアドバイザリーを務めたわ。1回目はトルコ倉庫のワケあり在庫を使用して、2回目は「TOPSHOP」の「Boutique Collection」から残った反物を使用したの。
「TOPSHOP」とのプロジェクトを実現できたのは、やっぱり「From Somewhere」の存在と意義を知っている人がいてくれたから。確かに私のブランドは小さいけれど、私たちがやってきたことを見てくれている人は見てくれていたの。地道だけど、しっかり活動を続けてきていたことで、扉を開けていくことができたと思っているわ。
―― 「TOPSHOP」の「Reclaim to Wear」商品は完売したと聞きました。コラボレーションを振り返ってどうでしょう? 反響はいかがでしたか?
そうね、結果自体は良かったかもしれないけど、大企業とコラボレーションするのは本当に難しかったわ。組織として小回りがきかないのはとってもたいへんだった。いま、TOPSHOPのためにアップサイクルに関する資料をまとめているところなの。彼らが自分たちでこうした取り組みを継続して、若い世代をどんどんインスパイアしてほしい。
コラボレーションは、「From Somewhere」の売上としての反響はなかったけれど、ブランド力と知名度を上げるのには効果があった。もちろん、「アップサイクル」に対する意識を喚起するのには確実に効果があったわ。
―― あなたは香港でアップサイクルのノウハウについて学生に指導もしています。香港のエシカルファッション事情はどうですか?
ここ数年は頻繁に香港を訪ねていて、「Redress(リドレス)」というエコファッションを推進するNPO団体とともにHongKong Design Instituteの生徒に教えているの。
全てが本当にスピーディーで驚くわ。2年前に初めて授業をしたのだけど、いまやほとんどの生徒がアップサイクルに取り組んでいるわ。高い関心を寄せているのも分かるの。彼らの学校の窓からは埋め立てごみ処理場が見えていて、毎日234トンものゴミがそこに捨てられているのが見える。不況の影響から服の売れ残りもすさまじい。だから彼らにとって、ゴミの問題は目に見えるものとして存在しているの。
今の23〜25歳世代はアパレル産業の課題に対してはっきりと意見する最初の世代だと思う。5〜6年前は、「サステナブルなブランドをやりたいけど、あくまでデザインとして認められたくて、サステナブルなブランドだってことは知らないでほしい」と言う人が多かった。でも今の世代は「まず、私のブランドがサステナブルだって知ってほしい。だって私はデザイナーだから!」と言うのよ。本当に時代が変わってきたわね。
―― 一方、今のイギリスのエシカルファッションシーンについてはどう思いますか?
教育機関がしっかり取り組んでいるから、イギリスはだいぶ進んでいると思うわ。それで興味を持って取り組む若い世代が増えていることはすばらしいこと。
ブランドとしても若い世代のお客さんが増えてきたわ。彼ら向けに価格帯も下げようとしているの。顧客のみならず、取り組みを見てくれるオーディエンスも若い世代が中心になってきた。いろんなアップサイクルのアイディアも若い世代から生まれているのよ。音楽のアップサイクルのフェスティバルを企画している子たちもいるの! 音楽のアップサイクルなんて想像つかないと思うけど、本当に全く新しい音楽を生み出しているのよ。
―― もっとエシカルファッションを広げていくためにはどういったことが必要だと考えますか?
そうね、おおむね私たちはちゃんと進むべき道を進んでいると思うの。オーディエンスもちゃんと増えてきたし、特別必要なものはもうないと思うわ。
より多くの企業を巻き込んでいくという意味では、もっと働きかけていく必要があるとは思うの。でも多くの大企業がいま、急いで「グリーン」ブランディングに取り組んでいるわね。ハイストリートの小売企業はサステナブルな商品を実際に作ることで取り組んでいるけど、ハイエンドブランドはCSRやチャリティというストーリーづくりの部分で取り組んでいる。でも、商品がなければ消費者にまで広げていけないからもっと商品が必要。CSRやチャリティというストーリーづくりと商品づくりが融合していく必要があるわ。
―― 最後に、長らくこのエシカルファッションシーンで活動をしてきたあなたですが、なぜ続けてこれたと思いますか?
別のことができなかった、それだけよ。ただ、「変化を見届ける」というゴールを一つ決めているの。その目標を達成するまではがんばるわ。
仲間ーー私はみんなのことを「Ethicana(エシカーナ)」と呼んでいるんだけどーーとともにムーブメントを作っていこうとするのが心地いいし、ルールを壊していくのが楽しい。彼らがいなかったら、ここまで生き抜いてこれなかったということは確かね。