「グアテマラ」と聞くと、何を思い浮かべますか? 北海道と九州を併せたほどの面積を持つこの国は魅力がいっぱい。ティカル遺跡に代表されるマヤ文明の遺跡の数々に始まり、中米のポンペイと呼ばれるコロニアル様式の美しい街・アンティグア、先住民の市場に、カリブ海に面した絶景のリゾート地……でも何よりも目を奪われるのは、強烈なほど鮮やかながらも調和して美しい色づかいではないでしょうか。
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グアテマラでは、いまだに古来と同じ道具や手法を使い、華やかで手の込んだ織物が織られています。スペインによる侵略と支配という歴史があったにもかかわらず、その技術を親から子へと受け継ぎ、村によってそれぞれ特徴的な民族衣装を日常的に身につけています。

ふだんからとてもおしゃれなマヤ系先住民たち。年配の人たちの古い民族衣装は特にすばらしい。
そんなグアテマラの色の魅力の虜になったというオオクボアヤさんとタカザキマリコさんという2人の女性が立ち上げたブランド「ilo itoo(イロイトー)」が、2012年福岡に生まれました。なかなか日本から訪ねるには難しいグアテマラについて、そして2人が魅せられたグアテマラの「色」について尋ねました。
グアテマラの手仕事カルチャー
―― まずは、グアテマラに行かれた理由・きっかけなど、お二人それぞれ教えてください。
オオクボアヤさん(以下、敬称略): 服飾関係の勉強をしていた大学生のときに課題で民族衣装について学ぶことがあり、図書館で「五色の燦(きらめ)き: グァテマラ・マヤ民族衣装(東京家政大学出版部、1998/1/22)」というグアテマラの民族衣装の本に出合ったことがきっかけでした。その色彩に衝撃を受けた私は、数か月後には友人と2人でグアテマラへと旅立っていました。卒業後には一度グラフィックデザイナーとして就職しましたが、やっぱりグアテマラが大好きで、2008年に青年海外協力隊に参加してさらに2年滞在しました。
タカザキマリコさん(以下、敬称略): 青年海外協力隊に参加したことがきっかけで、派遣国がたまたまグアテマラでした。学生の頃メキシコには旅行したことはあったのですが、グアテマラが隣国とは知らず、派遣が決まって初めてグアテマラという国を認識しました。帰国後にオオクボからブランドの構想を聞いて、一緒に立ち上げることにしました。

左:オオクボアヤさん、右:タカザキマリコさん
―― グアテマラの手仕事とはどういったものなのでしょうか?
オオクボ・タカザキ: グアテマラの先住民たちは手先が器用で、手織物、ビーズ細工、革細工、刺繍などなどさまざまな手仕事があります。周辺諸国で売られているお土産ものも、実はグアテマラで作られた商品だったりします。
織物に関していうと、グアテマラの女の子は7〜8歳になると、お母さんから織物を習います。自分で着るものはもちろん、収入を得るために織物をして家計を支えます。織物は職人の仕事ではなく、生活に根づいた女性の手仕事として代々受け継がれてきました。近年は経済発展の影響もあり、首都に近くなるほど洋服を着る人の姿が目立つようになっています。学歴重視社会が進む中、織物が織れない女性も多くなってきています。
それでもまだまだ織物文化を日常生活に見ることはできますし、私たちが商品をお願いしている人たちの中には20代の女性もいます。
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
「色彩の洪水」といわれるグアテマラの色
―― ブランド名にも「ilo(色)」という音が入っていますが、ブランド名の由来も「色」から来ているのでしょうか?
オオクボ・タカザキ: そうですね。スペイン語で「糸」を意味する単語「hilo(イロ)」を知ったとき、日本語の「色」が重なり不思議な共通点を感じました。
「糸」は、紡ぐ、撚る、結ぶ、染める、織る、編む、縫う、とそれぞれの過程で表情を変えていろんなものへ変化していきます。さらにさまざまな「色」を加えることで、より多様な変化を遂げます。細い一筋の「糸」に、無限大の可能性が秘められています。
グアテマラのカラフルな糸が私たちとグアテマラ、そしてみなさんをつなぎ、「たくさんの人の心にたくさんの色が溢れますように」という思いを込めました。
―― グアテマラの色に魅了されたお二人ですが、グアテマラの色の魅力とはどういったところにあるでしょうか?
オオクボ・タカザキ: グアテマラの色の魅力は私たちの色彩感覚、既存のセオリーを越えた色の組み合わせと色づかいにあると思います。写真を見てのとおり、現地の手織物には赤にピンクにオレンジ、緑に黄色、黒、白……と「色彩の洪水」といわれるほどにありとあらゆる色が織り込まれ、しかも調和しています。彼らの心を表現したような自由で明るい色の組み合わせは、日本ではなかなか目にすることのできない大胆で独特な魅力を持っています。とっても自由で、ユーモア溢れるところが大好きです。日本の暗くて寒い冬に、グアテマラの写真を見るだけで明るい気持ちになったりしますね。
また色彩としての「色」はもちろんですが、古くから伝わるマヤ文明の神秘的な歴史や色濃い自然、真っ青な空、先住民やラティーノが混在する多民族国家など、国としてもいろんな「色」を持っているところにも惹かれました。


―― それらの色は、どのようにして作られているのでしょうか?
オオクボ・タカザキ: 昔は地域にあった植物を使って糸を染め、織物をしていたようです。しかし、スペイン侵略後はより発色の良い化学染料で染めた糸が入ってきたため、それらの糸を使って織物をするようになったようです。
しかし、消費者の環境への意識の高まりとともに、特に観光客向けの商品については再び草木染めの魅力が見直されてきています。日本人の専門家が中心となって、コーヒーの樹やアボカドの樹皮など土着の植物を染料とした草木染めの技術が復活している地域もあります。
「ilo itoo」のものづくり
―― では、現在「ilo itoo」では、どういった方々が生産に参加していますか? どのようにして人を集めたのでしょう?
オオクボ・タカザキ: 現在仕事をお願いしているメンバーは全員家庭や子どもを持つ主婦で、サン・フアン・ラ・ラグーナという湖畔の小さな町に暮らしています。バッグや帽子などを作る縫製グループとストールなどを作る織物グループの二つがあります。縫製グループは、その町にもともとあったいくつもの女性グループを訪ね、やる気があり、最低限の技術を持つ女性たちに声を掛けて「ilo itoo」専属の縫製員としてグループを作ってもらいました。織物は、イショック・アフケームという町ですでにできていたグループに生産をお願いしています。
現地組織をコントロールするために縫製メンバーのうち一人を連絡・管理係として日本とのコンタクトや指示の伝達、材料仕入や管理などを行ってもらっています。それとは別にもう一人、縫製が上手で首都の工場で働いた経験のある女性がいて、彼女には品質管理の係として商品の検品や新商品のサンプル作りなど技術のいる仕事をお願いしています。
染め方、織り方、縫い方……現地のメンバーと共にどのようにして作っているのか、一から説明するムービー。絆という糸も紡がれています♫
―― 使用されている糸やビーズ、レザーなどはどのように調達されているのでしょう?
オオクボ・タカザキ: 基本的に、商品の材料はグアテマラで調達しています。日本のものの方が品質が高いことは分かっていますが、なるべく全てを現地でかたちにできることを目標としているので、材料に制限がある場合はその範囲でできるデザインを考えたりもします。
革を使った商品に関しては、現在日本の革作家さんに制作を依頼していて商品にしています。グアテマラにも革の加工を得意とする地域があるので、将来的には生産の幅を広げてグアテマラでも革加工ができるようにしたいと思っています。
―― 現地の織り手さんたちと作業をする中でたいへんだったことなどはありましたか?
オオクボ・タカザキ: ニ人ともグアテマラでニ年間生活した経験があったので、グアテマラの人たちの働き方や思考、起こりうる弊害やリスクに関してもある程度は予測できていました。そのうえで「ilo itoo」として現地の人たちと一緒に働きたいという思いでグアテマラに向かったので、もどかしい部分や悩むところはたくさんありましたが、ほとんどが想定内のことだったといえます。
その中で一番の難関はといえば、やはり品質管理でした。いままでなかったその概念を理解して実行してもらうのに、いまでも四苦八苦しています。ただ、いまの「ilo itoo」生産グループのメンバーは、数ある女性グループの中でも非常にレベルの高い技術を持つ方々で、日本で商品を売るということの意味を理解してくれているので、彼女たちと出会えたことは本当に運が良かったと思っています。
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

―― 最後に、グアテマラに行ったらぜひ訪問すべきおすすめスポットを教えてください!
オオクボ・タカザキ: グアテマラは観光資源が本当にたくさんあって、二年生活していても全部見て回ることはできないほどでした。有名な観光地としてはスペイン統治時代の街並みが残る世界遺産の街・アンティグアやマヤ文明のピラミッドが残るティカル遺跡、周辺住民の民族衣装も含め世界一美しい湖と呼ばれるアティトラン湖などがあります。
またセマナ・サンタというキリスト教のお祭りではアルフォンブラという木屑を使った芸術作品が街中に現れ、グアテマラ人のアーティスティックな一面を見ることができます。特にアンティグアのそれは、世界中から観光客がやってくるグアテマラを代表するお祭りで、一見の価値ありです。

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写真を見ているだけでも、色の洪水に胸が踊ります。パターンが千差万別で華麗な織物、村ごとに異なる柄の特徴……実際に訪れても見ていて飽きないものだそう。濃厚で情熱的な配色、それでいて細かい幾何学的な繊細さ。街の色合いと人々の賑わいと、美しい布が織りなす極上のハーモニーを堪能しに、ぜひグアテマラを訪ねたくなりました。日常にそんな色合いをもたらす「ilo itoo」のアイテムで、最初の一歩を踏み出してみては?
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