ジュエリーの素材となるゴールドの採掘現場には世界約2,000万人の採掘者が従事採掘者が従事しているといわれており、深刻な児童・強制労働、貧困、健康被害、化学物質による環境汚染、生態系の破壊などが問題視されています。
2012年4月にローンチしたエシカルジュエリーブランド「R ethical jewelry(アール・エシカル・ジュエリー)」は、フェアトレードのしくみを活用して身につけることでこれら問題の解決につなげています。繊細なデザインに表されたさりげなくもぜいたくなお守りのような優しさが特徴。2013年は有名人や大手雑誌に取り上げられる機会も増え、メッセージを伝えることに成功しつつあります。
同ブランドは、2013年8月に日本で初めてFairmined(フェアマインド)認証ゴールドラベルの使用許可を取得。フェアトレードラベルは、消費者に価値を伝えるためのものとされていますが、ラベル認証を持たずにスタートした設立時とゴールドへのFairmined認証ラベルを取得した現在では、売上やコミュニケーションにどのような違いがあったのでしょうか? R ethical jewelry代表・デザイナーである星まりさんに認証ラベルの効果をはじめ、ブランドのコミュニケーションについて尋ねました。
エシカルのメッセージを伝えていく
――まだまだ知られていない以上、伝えていく難しさはどのブランドもまだまだ課題になっていますね。しかし御社は上手にメッセージを発信しておられる印象です。その一つに、NGO/NPOとのチャリティコラボレーションを通じてメッセージを届けていることが挙げられると思うのですが、このあたりについて詳しく教えて下さい。
星: 子どもがまだ小さいということもあり、自分で実際に現地を訪れることが難しい状況にあります。「現地に行って、これだけの成果を上げました」「児童労働がこれだけ減少しました」と、ブランドが与えた影響や変化を伝えることができない……というジレンマは常々感じていました。そんなとき「よりエシカルブランドらしさを生かせる」と思ったのは、ミッションに共感できる国際的なNGO・NPOとのコラボレーションでした。現地の住民や、動植物と密につながっている彼らの強みを支援するかたちのジュエリーの販売です。
そこで、国際NGOプラン・ジャパンのBecause I am a Girlキャンペーンのピンキーリングの販売が実現しました。R ethical jewelryを好きになってくださる客層は、30〜40代の働いている女性が多いのですが、ピンキーリングは手に取りやすい価格にしたこともあり、若い学生の方から70代の方まで、幅広いお客さまにご購入頂いています。
また最近始めた取り組みとして、自然・動物・人が共生できる森づくりをしているNGO「ボルネオ保全トラスト・ジャパン」とのチャリティージュエリーも販売しています。こちらは、ボルネオ保全トラスト・ジャパンに自然の力で偶然で生まれたボルネオ産のツインパールを譲っていただいているのですが、日本で調達した14Kゴールドフィルドを用いて製品化し、売上の5%を同団体に寄付しています。
これらはチャリティであり、通常の商品と素材・価格も異なる部分もあります。でも消費者の方は少しでも意味のある消費を求めていらっしゃり、こうした取り組みを通じてならば、「エシカル」なメッセージに共感してもらいやすいなという手応えを感じています。
――メッセージの伝え方でいうともう一点、御社は華やかなイメージで、「フェアトレード」や「エシカル」を全面に押し出していない印象を受けていますが、そのあたりはいかがでしょうか? エシカルのメッセージよりも先に、オフィスからパーティまでの多様なシーンで身につけられるデザインにまず魅力を感じます。
星: デザイン面では「華やかなエシカルジュエリー」をテーマに掲げていて、フェアトレードがもともと持っていた手作りっぽいイメージを覆す世界観を打ち出していこうと考えています。
これは「逆のコミュニケーション」を目指したものなんです。つまり、フェアトレードやエシカルをご存知ない方が「かわいい」と手に取ったときの「これ、フェアトレードなんだ!」という発見だったり、フェアトレードやエシカルをすでにご存知の方にとっては「フェアトレードらしくない!」という驚きだったり。既成概念を覆すことで感動を生み出し、ブランドを認知してもらうという思いがあります。
2013年はウェブサイトもリニューアルしましたが、ブランド性を重視して世界観が最初に伝わるようにしました。初期のウェブサイトは、フェアトレードにおける取り組みや問題をもっと多く記載していたのですが、リニューアルではそうした取り組みについては、読みたいと思う方が読めるような作りにし、写真をメインにしたトップページでジュエリーブランドであることを全面に打ち出すようにしています。
デザインとコミュニケーションにおける「エシカル」の扱い方
――こうしたメッセージ戦略に至ったきっかけってどういうことだったのでしょうか?
星: 最終的に、ブランドとして成功するのは「エシカル」や「フェアトレード」を取り除いた勝負だと考えているからです。それらの要素を取り除いてR ethical jewelryの商品を他のジュエリーブランドと並べたとき、それでも「良い!」って思ってもらえるものって何だろう? と考えながらブランド運営をしています。実際にジュエリー販売して感じるのは、お客さまが「商品を好きかどうか」ということが最も重要だということです。例えば、同じデザインと価格の商品で、違いはフェアトレードであることだけならば、フェアトレード商品を選ぶ方も多いかもしれません。でも結局は「商品そのものに魅力があるか」です。あくまでも、エシカルやフェアトレードは「プラスの要素」。バイヤーさんとの商談でも「エシカル」「フェアトレード」ということを差別化できるポイントにしながらも、ブランド性はきちんと持っていなければなりません。デザインと世界観を持ったジュエリー、そしてそれらを支えるマーケティングコミュニケーションも大切です。いかにフェアトレードらしくしないかーーそこが、一番重要なこととして位置づけています。
――星さんは、エシカルについてどのようにお考えですか?
星: エシカルは、幅が広いところにおもしろさを感じています。フェアトレードは「公正な取引」として狭義になりやすいですが、「エシカル」だと、素材調達は通常の販売ルートだったとしても、製作を途上国で行って支援になるなど、多様な取り組み方ができて幅がぐっと広がります。「良心・倫理的といわれるところをどこに見いだしているのか」ということなので、いろんな人のいろんな取り組みや発信の方法があって良いと思います。好き嫌い、選ぶのは消費者なのですから。
(インタビューここまで)
言葉の定義が明確に定められていない「エシカル」。各ブランドの理念や商品、そしてそのメッセージの発信方法もそれぞれです。だからこそ、消費者自身もそれぞれのブランドがどのような思いをかたちにしているのか、商品に込められた背景にまで目を向けたうえで、『好き嫌いで選ぶ』ことが大切なのではないでしょうか。