植物由来の化学繊維は、本当に環境にやさしいのだろうか? それともただのグリーンウォッシング(※環境配慮をしているように装いごまかすこと [*wikipedia])で、石油由来の化学繊維と大差ないのだろうか?
「天然」とはいったいなにか?
Tencel(テンセル)®、Modal(モダール)®、大豆やとうもろこしが原料のテキスタイルなど、植物由来(バイオベース)のテキスタイルの研究開発に多大な投資がなされており、その額は4000億ドルにも上る。近年の技術進歩によって、植物から高機能繊維を作り出すことができるようになり、スポーツウェア、アウトドアウェアの分野で特に採用されている。
樹木や植物の繊維からできているといえど、科学で操作されたこれらの繊維は果たして「天然」の類とみなして良いのだろうか?
繊維企業の科学者・開発者たちは、1980年からセルロース繊維(※wikipedia)の開発に乗り出してきた。
セルロースは、植物細胞の細胞壁および繊維の主成分で、天然の植物質の1/3を占め、地球上で最も多く存在する炭水化物(※wikipedia)で、主にコットンや木材が原料として使用されている。代表的なものとしては、ヴィスコースレーヨンとして知られている。
しかしこれは、水や燃料など多大なエネルギーを使用して生産されているうえ二酸化炭素の排出量も高く、環境面で無駄の大きいものだった。現在では、バンブー(竹)も頻繁に使用されているが、これも有害化学物質で融解して製造される。
エコ進化の裏で目を向けなければいけないこと
再生セルロース繊維はこの10年でエコに配慮した別の製造方法も多数開発されるなど実に進化を遂げている。たとえばLenzing社のTencel®は、大気中・水中に有害物質を排出しないクローズドな方法を編み出し、繊維を融解させる化学物質も99.5%の再利用を実現している。
また、ユーカリ、ブナ材、とうもろこし、ヘンプ、亜麻、イラクサなどを原料とするものなどが生まれ、環境負荷を軽減させながらより高い機能性を持つものが開発されてきた。Tencel®やModal®、Ingeo(※インジオ; 飼料用トウモロコシのデキストロースから製造されるPLA繊維)などの新しい再生セルロース繊維は、シルクやコットンなどと混紡してさらなる機能性を持たせることがある。
混紡する以外にも、遺伝子操作やナノテクノロジーと組み合わせた実験なども水面下で行われており、さらなる高機能繊維の登場も近いだろう。
このように、着実に進化してきた「エコな」再生セルロース繊維だが、忘れてはならないのは植物である以上、栽培しなければならないということだ。その栽培過程で、殺虫剤、水、エネルギー、開墾による土壌侵食などの可能性がある。糸繰り〜編み〜織り〜染め〜と、サプライチェーンの長さが追跡を困難にしており、その可能性を確かめるのは難しい。
それは消費者が洗濯したりする際の環境負荷にも関わってくる。セルロース繊維の中にも、染まりにくいものがあるが、サプライチェーンの中でどんな加工をされているかによって、洗濯しながら有害物質を流出させている可能性だってあるのだ。
もう一つの革命的な技術進歩に、バイオ燃料(※生物体原料を燃料として用いた燃料のこと。ほとんどは植物起源の再生可能エネルギー[weblio])由来のポリエステルが挙げられる。
通常のポリエステルは石油を原料とし、フタル酸などを使用して柔軟性を加えていたが、フタル酸は生殖器を始めとする身体に影響を及ぼすことが判明している。この技術を実用化したのは、日本企業の東レで、サトウキビなどを原料とする植物由来エチレングリコールを重合・溶融紡糸している。この開発時にも、土地管理・開墾についての問題が壁になったという。
植物性の化学繊維は確かに石油よりは「マシ」だろう。生産量が増えるにつれてサトウキビ畑やトウモロコシ畑を次から次へと開墾しなければならないのであれば、完全循環型のクローズドな製造装置の開発を待たなくてはならない。そんな技術の登場が楽しみだ。