イギリス人デザイナー・Lucy Tammam(ルーシー タマム)は、かのセントラル・セント・マーチンズ芸術大学を卒業したデザイナーであり、英ベジタリアン協会に認定を受けた初のクチュールブランドのクリエイティブディレクターでもある。
英ベジタリアン協会は、世界で最も古い歴史を誇るベジタリアンを推進する協会で、その歴史は1847年にまで遡る。ビジネス、政治、研究にと力を発揮する同協会は、ファッションにも力を発揮。「TAMMAM」に、ベジタリアンクチュールのお墨付きを渡したのだ。
2007年にロンドンでスタートした「TAMMAM」。設立以来、動物と環境に優しいフェアトレードブランドとして発展してきた。Lucy自身も20年以上という年季の入ったベジタリアン。アニマルライツを追求する若き活動家でもあった。「TAMMAM」とは、そんな彼女が、ささやかな貯金とベジタリアンのチャリティ協会から支援を受けて設立したブランドなのである。
そして彼女の服はたちまちセレブたちの間で有名になる。ハイエンドなコレクションを、ロンドン、パリ、ニューヨーク等の世界コレクションで発表。テレビやインターネットを含め、国内外多数の媒体で取り上げられる。しかし、「TAMMAM」自身はあくまでもスモールカンパニー的な姿勢を貫いている。ロンドンのBloomsburyに、昔ながらの小さなスタジオを構え、一人ひとりの顧客に向き合って服を作っている。個人のウェディングドレスから、アパレル企業向けの商品まで対応するのはさまざまな商品。ドレスだけでなく、ジュエリー、ヘッドアクセサリー、靴などのアクセサリー類、ヘアスタイルからメイクまで相談に乗っている。
ウェディングドレスの制作も、昔ながらのオーダーメイドのやり方を貫いている。バンガロールとコルカタにあるテーラリングチームがトワルを作り、それを顧客が試着し、納得されれば最終商品を作り提供する。顧客の希望に応じてアレンジも加えるので、一つとして同じ商品に仕上がることがない。刺繍、ビーズの刺繍、レース、プリントなどの装飾も、インドの職人が手で仕上げている。インドと連携したこの生産体制を貫くことで、インド現地の女性の生活が向上した話を聞くのは感動する。例えば、刺繍職人Ammuさんは病気を乗り越え、自立の道を歩み出すことができたという。そのほかにも、「TAMMAM」での経験を生かして自分のビジネスを始めることができた人もたくさんいるという。
言うまでもなく、「TAMMAM」の服は環境にも優しい。染色液はアゾフリー、素材もピース・シルク、バナナ繊維、オーガニック・フェアトレードコットンなど、動物に優しい「ヴィーガン素材」を使用している。ピース・シルクとは、自生する蚕が自然に孵化したあとに残した繭を回収して紡いだシルクのこと。「TAMMAM」は、過去10年にわたり、クチュールにふさわしいヴィーガン素材を追求してきた。ヴィーガン素材が使用できない場合には、アップサイクル素材やヴィンテージ素材を使用している。
「TAMMAM」のウェディングドレスを着れば、残虐な方法で殺された動物から得た素材は一切使用されない。また、インドの生産者にも還元できる。インドの生産者たちも、WFTO基準に則った賃金を保証されている。新たな人生の始まりをかけているのは、花嫁だけでなく、生産者たちも同様なのだ。