フェアトレードの専門ブランド「ピープル・ツリー」をはじめ、世界75カ国・450団体が加盟する世界フェアトレード機関(WFTO)の年次総会(2年に1度開催)「グローバル・フェアトレード・ウィーク」がブラジル・リオデジャネイロで開催され、新しいフェアトレード認証システムの確立や、フェアトレードタウン運動の推進をはじめとする複数の取り組みを進めることを決議し、成功のもと無事に幕を閉じた。
今後は、決議された内容を遂行し、フェアトレードの認知度がさらに上がり、国際的なムーブメントとして広がっていくことが期待される。同会に出席した「ピープル・ツリー」代表サフィア・ミニー氏と、「ピープル・ツリー」常務取締役・胤森(たねもり)なお子氏が、6月12日(水)・13日(木)に開催された同社の2013年AWコレクション展示会で、決議内容とその意味を説明した。
決定された5つのポイント
①WFTOによる新しいフェアトレードの保証システム、および製品認証マークの立ち上げ ②フェアトレード製品の占める割合が60%以上の店をフェアトレード・ショップとする、という基準の制定 ③フェアトレードタウン運動への積極的な関わり、および推進 ④ジェンダー差別に関する取り組みの強化 ⑤公正な価格と賃金に関する取り組みの強化
手工芸品や衣料品にも認証マークを。フェアトレード市場拡大へ
WFTOは、フェアトレードについて10の基準を定めており、今回の認証制度は、製品が作られる各工程でこの10基準が守られていることをWFTOが保証し、マークを製品に付与する制度である。
1. 生産者に仕事の機会を提供する 2. 事業の透明性を保つ 3. 公正な取引を実践する 4. 生産者に公正な対価を支払う 5. 児童労働および強制労働を排除する 6. 差別をせず、男女平等と結社の自由を守る 7. 安全で健康的な労働条件を守る 8. 生産者のキャパシティ・ビルディングを支援する 9. フェアトレードを推進する 10. 環境に配慮する
WFTOマークはこれまで、基準を守って活動していると認められたメンバー団体が、認証された団体として自社を紹介する際に使用するものであった。ゆえに、製品の生産工程全てに対して、フェアトレードを保証するものではなかった。
現存のフェアトレード認証のしくみとしては、国際フェアトレードラベル機構(FLO)が実施する認証ラベルがある。FLOでは主にコーヒー、紅茶、果物などの一次産品を対象にフェアトレード認証を行っており、これにより欧米ではスーパーマーケットなどの一般流通店舗等でフェアトレード・ラベル付き製品の普及が進んだ背景がある。
「フェアトレード商品」の矛盾解決へ
WFTOに加盟する生産者団体のうち、手工芸生産者が多くを占めるが、手工芸品や衣料品の生産過程についてはこれまで認証する制度がなかった。そんな中、5~6年前よりWFTOに加盟する生産者団体から「製品にもラベルを」と要望が出ていた。『食品のように製品にマークが付けられていれば、フェアトレード製品の差別化ができて選択する消費者が増え、生産者の収入アップにつながる』と期待してのことだ。しかし一次産品と異なり、生産工程が多岐にわたる手工芸品や衣料品は、どのようにそれぞれの工程で基準が遵守されているかを確認するかという課題があり、プロセスの構築が議論されていた。
「ピープル・ツリー」常務取締役 胤森氏は、「FLOラベルは手工芸品や衣料品を認証対象としておらず、WFTOでそのしくみをつくることがずっと課題だった」と話した。その理由として、多くの生産工程にさまざまな農村の小規模グループが関わる手工芸品や衣料品は、農産物のFLO基準の一つである「最低保証価格」を一律で設定することが難しいことや、公正な賃金の支払いや労働環境を第三者が監査する際の費用を小規模の生産者団体が負担することが困難であることが挙げられるという。そのため、フェアトレードの恩恵を受けるべき生産者の多くが認証制度の対象となっていないという矛盾があった。
最低保証価格……国際市場価格がどんなに下落しても、輸入業者が生産組合に保証する「フェアトレード最低価格」。
「自立」に向けて
その解決に向け、WFTOでは、メンバー団体が10基準に従って活動しているかを審査するチェックポイントを作成し、それに従って自己評価と監査を行うというパイロットプロジェクトを3年にわたって実施。チェックポイントや監査方法が整備できたことから、WFTOの認証制度として正式に決議に至ることになった。「ピープル・ツリー」やその生産者パートナーも、そのパイロットプロジェクトに参加していた。
結果成立したWFTOの新制度では、WFTOのメンバーどうしで活動の監査を行うなどの工夫によって費用負担を減らし、小規模生産者が参加しやすいしくみができているという。また、生産者自身が労働環境や賃金レベルなどを自分たちでチェックし自己評価できるツールを作成し、メンバー団体が活動の透明性や信頼性を高められるようになっている。それにより、生産者自身がフェアトレードの基準を理解し、自分たちで改善点を見つけて解決していくことができるようになる。また、生産者一人ひとりが自信と誇りを持って仕事をすることができるようになる。経済的な「自立」が促されるだけでなく、自らそのために必要な力をつけていけるものになっている。
しかし、道はまだ始まったばかりだ。パイロットプロジェクトで行なった自己評価と監査によって、いくつかの課題が浮き彫りになったという。例えば、バングラデシュのある生産者団体では、糸巻き作業の担当者の賃金が現地の最低賃金を下回っていることが判明。その改善のため、それまで行われていなかった労働時間の記録や賃金の支払い記録を徹底し、労働に見合った賃金が支払われるようになった。また、別の団体では染色工程で出る排水の処理が不十分であることが分かり、染料の適切な保管や排水設備の整備が計画されている。
今後の流れ
自ら課題を見つけ、解決をしていくために、WFTOはどのように各団体をサポートしていくのだろうか?
「WFTOの監査では、『基準をに達していれば合格、そうでなければ不合格』という単純な考え方ではなく、『すぐに達成しなくても時間をかけて改善していくこと。達成していてもさらに改善を目指すこと』を奨励しています。課題の解決のためのステップ構築には、最初のうちはスキルを持つ監査員がアドバイスを提供することになるでしょうが、その後はメンバーどうしで評価し合う中で、より経験を積んだ団体が他の団体にアドバイスしていくようになれると思います」と、胤森氏は今後の展望を説明する。
今後、WFTOのメンバー団体は、新認証制度のルールに従って自己評価報告を提出し監査を受けると、WFTOの認証委員会で審査される。製品の生産者団体、販売団体がそれぞれ承認されれば、フェアトレード製品としてWFTOマークを製品に付けて販売することができる。最短では、7月中旬に審査が行われ来春発売される製品にWFTOマークを付けて発売が可能となる。WFTOマークの付いた手工芸品や衣料品を目にする日が近い。
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