【連載】我的上海的生活【全10回】

上海でのデザイナー経験を振り返って……日本と中国マーケットの違い

A Picture of $name 斉藤 霞 2013. 6. 10

你好! 出だしから私事ではありますが、退職しました。日本で約4年+上海で約1年のファストファッションデザイナー歴にピリオドです。

そこで今回はこの1年、上海でデザイナーとして働くなかで感じたことや気がついたことをご紹介します。

上海のバブリーナイト!

上海のバブリーナイト!

中国の日系ファッション

中国のジャパニーズファッションというとみなさんはどんなモノを想像しますか? 日本の女の子のファッションやカルチャーは、中国でもとても人気があり、日系ブランドもどんどん進出しています。私自身も当初そういったイメージを強く持っていましたし、そのような中国国内の日系ブランド(レディースヤングカジュアル)に対してデザイン提案をしてきました。しかし実際に携わってみると、そのイメージどおり! ……という感じではありませんでした。それはいったい、どういうことでしょうか?

以前に「ファッションはローカルなもの」という言葉を聞いたことがありますが、上海に来てこの言葉を強く実感しました。上海の女の子たちが持つ「日系ファッションブランド」のイメージは、日本人の私からみたら、本来の「日本ファッション」とはちょっと違うニュアンスになっているように感じるのです。

特に色やシルエットは地域性がとても強く反映されます。例えば、日本で展開したデザインで、中国で人気のカラーを限定生産するとか、ポイントとなるディテールは同じだけどシルエットは違うとか。同じ「日系ブランド」といっても、日本のテイストそのままで展開しているブランドよりも、チャイナマーケットのニーズに合わせて販売できているブランドの方が勢いを感じます。中国ニーズに合わせたデザインの日本ブランドが、「日系ブランド」として認識され、人気を集めているのです。

中国マーケットのニーズ

それではチャイナマーケットのニーズとは? 私なりに日本のファッションとの比較をまとめてみました。

EFJNo7 表

この比較を見ているとバブル世代の方々は「そうそう!」と納得する部分があるのではないでしょうか? みんながお金を持ち始め、「とにかくお金を使いたい!」。そういった心理が強く反映されているように思います。また、こちらに来てファッション関係の方々とお話していると、次のような意見をよく耳にします。

せっかくお金を支払って買うのだから誰が見ても明らかに美しく変わったと認めてもらえるようなデザインがほしい。また、今まで「服を買う」という経験が少なかった人は、素材について詳しくない。素材に触れる機会が少なかったゆえに、見た目重視の服を購入してしまうのだ。

「いったい誰が買うんだ!?」と驚くほど粗悪な生地から作られた服も少なくありませんが、きっとこのような理由から、見た目がかわいければいいと、需要が生まれてしまうのでしょう。それでも、いわゆる富裕層とかファッションに興味ある人は日本以上に価値のある素材を選ぶことを重要視します。それゆえ、上海の市場は粗悪な商品から超高級品までなんでも揃い、それがミックスされた市場は不思議な価値観が混在しているように感じるのです。

日本のファッションのイメージとは?

中国人デザイナー数名に、日本のファッションのイメージについて聞いたことがありました。シンプル過ぎる、ベーシック、体型カバー(=シルエットが悪い)、良質な素材が多い、ユニクロ……などのキーワードが挙がります。では、「シンプル」と一言にいってもどの程度のシンプルさを指すのか? こちらに来て興味深かったのは、恐らく一般的な日本人ならば、ちょっと派手かな? と感じるデザインも、中国人からみたらシンプルとグルーピングされることです。「えっ!? これがシンプル!?」と、初めの頃は驚くことが何度もありました。(私もこちらのマーケットをリサーチしていくうちにだんだんと感覚の違いを身につけてきて、最近では、帰国時に日本のショップを覗くと物足りなさを感じるほどになってしまいました(笑)。)

ボディコン率高し!

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上海OLスタイル。花金はタクシーが捕まらない!

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美意識の違いから感じるエシカルの未来

上海生活を始めてからは、「百聞は一見にしかず」と実感する日々。この美意識の違いを知ったことも「まさに」でした。
中国のファッションは、「新しくて美しいモノ」に美意識を感じる傾向があり、日本のマーケットはそんなバブル時代を経験し大抵の人はモノを買うことに慣れ、表面的な美しさだけでは無意味だと感じる傾向があるように思います。より長持ちするモノ、普遍的なモノ生産背景、生産工程、素材など、表面的な美しさではなく、もっと本質的なところに美意識を感じるようになってきていると思うのです。

もちろん、どちらが良いと正解があるわけではありません。しかし「エシカルファッションを実現していく」ことについて考えると、今の成熟した日本の市場は、ものすごい可能性があると感じるのです! そして中国も豊かになるにつれ、この傾向がじわじわと芽生えているように感じます。「我的上海的生活 NO.2」でも取り上げていますが、中国でも徐々に食品や化粧品などは安全についての関心が高まってきています。スーパーでは無農薬野菜のコーナーを設けたり、オーガニックをテーマにしたカフェなども少しずつオープンしています。化粧品やシャンプーなどの日用品も「あまり安いローカルブランドのモノは使わないほうがいいよ」と、中国人の友人たちはよく言います。

けれどファッションの安全性についての意識の変化はまだまだです。これからは「ファッション=外見を彩る華やかなモノ」という役わりだけではなく、その安全性や幸福度が新たな美意識として定着することを願います。そして私自身今後も、そんなふうに美意識をシフトさせるデザインを提案していきたいです。

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