2012年にフランスでスタートしたばかりのブランド「Johanna Riplinger(ヨハンナ・リプリンガー)」。天然素材による鮮やかな染色×フェミニンかつシックなデザインが見事に調和した、“グリーンラグジュアリー”というイメージにぴったりの注目ブランドです。
代表兼デザイナーのヨハンナさんは、フランスのエシカルブランド「ETHOS」でもデザイナーを務め、2011年に独立。内から湧き出る思いを、冷静に見つめ着実に前へと進むヨハンナに、自身について、またクリエーションの見どころなどを、ライター・Mie MANABEが尋ねました。
思い出という原点
――“エシカルファッション”の世界に進むことになったきっかけは?
原点は、ドイツの田舎で過ごした幼少期にあります。環境・自然に関する研究者であった父の影響で、私は幼い頃からよく植物辞典に目を通したり、草花がいっぱいの庭で遊びながら育ちました。子どもの頃の私にとって、自然に触れることは日常のことであり、すごく大好きな時間でした。
大人になるにつれ、環境破壊が進む社会の現状を知れば知るほど、なんともやるせない気持ちになりました。資源を浪費して大量生産し、その結果ものに対する価値や愛情が薄れていくという悪循環が悲しい。そこで、「自然の魅力や尊さを、みんなに思い出してもらえるようなモノをつくりたい」と考えるようになりファッションをその舞台に決めました。
ただ当時は“エシカルファッション”などという言葉も存在せず、まさに未知の分野で、両親は猛反対! それでもなんとか熱意を伝え納得してもらい、専門学校でモードの勉強をスタートしました。
――その専門学生時代には日本に留学されたと聞きましたが、そのきっかけは?
両親の自宅には日本に関する書物がたくさんあり、それらを眺めているうちに、日本の伝統的な芸術や文化に興味を持つようになりました。特に、日本文化の根底にある“禅”の精神には感動しました。常に派手な装飾を好んできた欧米の文化とは違い、不要なものを排除し、簡素でありながら奥が深い。禅の美学には、現代の暮らしを良くするためのヒントが詰まっていると思います。
3カ月間の短期留学でしたが、その間にさまざまな伝統技術や文化に触れることができ、その経験は今も私のクリエーションに大いに役立っています。例えば、この蝶々モチーフのドレス。生地の染色に、“絞り染め”の技法を用いました。
ちなみに、昔から日本茶が大好き! 小さい頃はドイツの家で“日本茶パーティー”を開いたりしていたんですよ。今でも、行きつけのカフェでは緑茶やほうじ茶をよく飲みます。
クリエーションの裏にあるもの……
――この蝶々ドレスを含め、今回公式で初ローンチとなる、2013SSコレクションの見どころを教えてください。
コレクション全体のテーマは、“épanouissement(開花)”。鮮やかなカラーと軽やかな素材・ゆったりしたカッティングで、風に舞いながら次々と花が咲き始める姿をイメージしました。
カタログの撮影は、フランスのモード界で活躍するフォトグラファー・Gilles Perriere(ジャイルス・ペリエール)。オランダの画家、ヨハネス・フェルメールの絵画を思わせる、高貴でミステリアスな雰囲気に仕上げてくれました。やさしさ、力強さを感じていただけるとうれしいです。
このドレスは、本物の花びらを丁寧に広げて布に当てることによって、一枚一枚の形をそのままモチーフとして生地にプリント。使用したマリーゴールドは、もともと神への捧げ物として寺院(下図)に飾られていたもの。役目を終えた後に捨てられるはずだった花たちは、美しい“色”となって、再び命を宿す。
また、コレクションのアイテムはほぼ全てインドでの天然染色。例えば、ココナッツの殻からはヌーディーなピンク、インド原産のフルーツからはオレンジ、そして昆虫の分泌物からは鮮やかな赤色など……インドで受け継がれる伝統的な天然染色の技術を取り入れ、現地で10年以上の経験を持つベテランの職人さん方と共に色作りから取り組んでいます。ちなみに、インドのパートナーは、日本の染色職人さんによって技術提供を受けた方なんですよ。
現段階ではニットなど天然染色が難しい生地もあり、一部に化学染料を使用しています。その際は、ECOCERT(エコサート)などの基準を満たした成分を厳選しています。しかし、私たちの目標はあくまで100%自然由来の染色。まだまだ勉強は続きます。
(左)インドのシッディ・ヴィナーニャク(Siddhivinayak)寺院。(真ん中・右)インドの朝市では、神への捧げものとして山ほどの花が売られている。黄色の花は、蝶々モチーフの絞り染めのドレスに染料として利用されたもの。
――洋服の製作過程では、インドとのつながりが深いようですね。
「ETHOS」のインドでの仕事を通じて得たインスピレーションやさまざまな方とのつながりは、今にももちろん通じています。目標は、材料から製作段階までインドで完結させること。染料がインドならば、生地や刺繍もインドで。同一の土地で作ることによって、職人さんどうしの輪が広がったりより多くの方がより多くの収入を得られるようになったりする。そうして、その土地の活性化につながればと思っています。
エシカル、ビジネス、トレンドの融合に重要なものとは?
――デザインを考える際、雑誌で見られるような、現代の一般的なトレンドを意識されることはありますか?
短期的に変わるものや、いかにも人為的に作られたようなトレンドには興味がありません。もちろんモードに興味はありますが、トレンドのコピーをするだけでは意味がありません。現代に受け入れられると同時に、個性に溢れ、長く愛されるデザインを形にするには、外からでなく、内から湧き出るインスピレーションを汲み取ることが一番重要だと思います。
私は、興味がないと思ったら、全くそれを受け付けません。好き嫌いがトコトンはっきりしているんですね。たまに雑誌も見たりしますが、ページをめくる速度はとても速いです(笑)。普段は、公園を散歩して花を眺めたり、きれいな風景を見ているときによくアイデアが浮かんで、それをいつも持ち歩いているノートに描いています。ちなみに、パリの郊外にあるバガテル公園は、たくさんの花に囲まれていてとてもきれい。私のお気に入りスポットです。
――最近、某ファストファッション企業から“エシカル”なラインが出始めたり、環境に関するさまざまな認証マークが作られるなど、大きな組織からのアプローチが少しずつ進んでいますが、それについてどう思われますか?
私はいかなる場合においても、エシカルな試みが為されるのはすばらしいことだと思います。特に大企業が動き出せば、より多くの人にメッセージを届けることができます。今の私にはまだそんな影響力はありません(笑)。
“エシカル”に向かうベクトルは、あまねくポジティブなものです。ものづくりにおいて、エコロジカルな素材を使用したり、生産プロセスにおける人・環境への影響を問うこと……そうしたことが当たり前になるべきと考えるならば、より多くの人々にそのことを考えるきっかけを与えられる大企業の参入や挑戦は、歓迎すべきことではないでしょうか。大量生産型のファストファッションである以上、彼らのやり方がどこまで徹底されたものなのかというのは分かりませんので、第三者として遠くから見守る立場にとどまりますが。何か少しでもプラスの要素があるなら「全くないよりは絶対いい!」ということですね。
これは認証マークにも同じことが言えると思います。もちろん、認証がないよりはあったほうがいいに決まっています。ただ、すごく複雑で柔軟性がない。そしてビジネスが絡んでいることによって、本当の目的が見失われてしまうこともあります。私自身は、いくつもの認証マークを取ることよりも、個人個人の付き合いの中で本当に信頼できる人、その道に真剣に取り組んでいる人と共に仕事をすることに価値があると思っています。
――最後に、今後の展望やご自身のブランドへの思いを聞かせてください。
今はまだ、フランスよりもドイツの方が全体的にエシカルの関心度が高く、エシカルやグリーンをテーマにしたショーやイベントもパリよりベルリンの方が多いのですが、サロンへの出展や期間限定ショップなども続けながら活動の場を広げ、デザインと質でブランドの認知度を高めていきたいですね。ビジネスとしてブランドを機能させていくのは、長期的に活動を続けるために欠かせない絶対条件です。そうやって、モードの世界でもエシカルなアプローチが十分可能であることを証明していきたいです。そしていつかきっと日本にもまた行きたいですね!
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