【連載】ヨーロッパのエシカルファッション【全9回】

エコテキスタイル展示会のホープ「Future Fabrics Expo 2012」とは?

A Picture of $name texƧture 2013. 1. 8

Written By:Dr. Pamela Ravasio, Twitter: @PamelaRavasio, director of texSture.

future-fabrics-expo-banner

サステナブルな素材を使用するだけで「エコ化」できるわけではない

2012年11月7日〜9日、London College of Fashionにて第2回Future Fabrics Expo展が開催された。50社もの繊維工場から650種類もの生地が展示され、多くのデザイナー、バイヤーを始めとするプロフェッショナルや学生が来場。予想以上の盛り上がりを見せていた。展示されている繊維製品は、いずれもさまざまに趣向を凝らしたエコ素材ばかり。各社とも、ビデオやインタラクティブな手法で自社製品を紹介した。

第2回目となる今回、サステナビリティについての議論を深化させるべく、ファッションおよびテキスタイルのサプライチェーンを細かく見られる機会が多く創出されていたほか、体験型のイベントも多く用意されていた。それらを通じて私が感じたことは、ファッションのサステナブル化は、ただ単にサステナブルな素材を使うことだけでは達成しえない、ということである。

Future Fabrics Expoその設立の背景と目的

この展示会は、The Sustainable Angle(以下、TSA)によって開催されている。この団体は、イギリスとスイスの共同NPOで、産業・社会のもたらしている環境負荷を軽減させるようなプロジェクトを支援している。

そしてFuture Fabrics Expoは、テキスタイル産業における技術革新を促進することで、ファッション産業全体の環境負荷を下げていくことを目的として開催されているものである。エコ素材というと、デザイナーが求める多様な表現に対応しきるほど種類が多くないように思われている。しかし、存在を知られていないだけで、実に多様なテキスタイルがすでに開発・販売されているのである。Future Fabrics Expoではそれらをできる限り多く展示し、現在すでにデザイナーとして活躍している者、または未来に活躍するであろう学生たちに情報を提供し啓発している。理解を深めてもらうには、実際に素材に見て触れてもらうことが最良である。

繰り返すようだが、ハイエンドのデザイナーが望むような品質のテキスタイルは予想以上に多いのだ。自ら望むようなテキスタイルがあることを知るや、デザイナーやバイヤーたちは、エコ素材製造者たちの言葉に耳を傾け始める。そこで、これらのエコ素材がどのような材料を用い、どのような工程を経て作られ、何が既存の生地と違うのかを説明する。そしてエコ素材を選択するほうがはるかに有意義だという理由を体感してもらうのだ。エコ素材を選択するデザイナーが増えれば、現在勃興しつつあるエコトレンドに拍車をかけていくことが期待される。

この展示会について特筆すべき点としてもう一つ挙げるならば、この展示会で展示されている素材はそれぞれ比較的大きい分量で展示されている。テキスタイル展示会のみならず、デザイナーたちが生地サンプルを取り寄せる際にも、サンプルには5cm四方または30cm四方の端切れほどの分量しか与えられないことが多かった。しかしFuture Fabrics Expoでは、大きい分量で展示しているため、ドレープ感などの表現力までじっくり確認できるのだ。デザイナーたちはエコ素材の全体的な表現力に触れると、これらの素材が彼らの求める表現に不足ない素材であるとすぐに確信する。

Future Fabrics Expoが目指す、もう一つのこと

Future Fabrics Expoは、もう一つ目的を持っている。それは、デザイナー側からの関心を促すことである。つまり、デザイナーたち自身にファッション産業の環境負荷を軽減していくためにアイディアを考えてもらうきっかけを増やすことだ。「素材」以上のサプライチェーン全体について、彼ら自身のデザインプロセスについて、商習慣についてなど、幅広くデザイナーたちの意見を募っている。エコな素材を使用するだけではエコ化は達成されないといったのは、いくらその素材がエコでも、代わりに従業員が劣悪な労働条件を強いられていたり廃棄量が膨大であったりなどでは意味がないからである。エコな素材を使用するだけでなく、ファッションを提供するしくみそのものについて考えをめぐらせ、「当たり前」としてきたことを見直していく作業が求められるのである。

TSAが行っている教育の役割は、過小に評価されてはいけない。TSAは学生だけでなく、デザイナー、マーチャンダイザー、各マネジャー、バイヤーなど幅広い人々を対象に啓発活動を行っている。TSAは素材についてだけでなく、そこから派生してファッションを生み出すための各段階でエコを選択することで具体的にどのような違いが生まれるのかを一つずつていねいに説明する。Gucciを抱えるPPRグループのような大手ファッション企業も独自のエコ指針を整備・発達させているところであるが、小規模企業もPPRグループのような巨大企業の方針を自社の方針の中に取り入れることが可能である。TSAは、どのようにして取り入れていけばいいのかを示している。

Future Fabrics Expo展示選定基準

TSAの生地とその製造工場の「エコ属性」の判定基準は、<図1>のとおりである。Future Fabrics Expo出展にあたり、エコ度と同様に重要視されるのが品質と美しさである。地域に根づいた生産をしているか、リサイクル素材を用いているのか、サプライチェーン全体にわたって認証を取得しているかなどといったエコ性とファッション性を両立させた素材でなければならない。

Illustration 1: Future Fabrics Expo evaluation criteria

図1: Future Fabrics Expo evaluation criteria
(Source: (c) thesustainableangle.org)

水:使用水量の削減、または排水量低減
廃棄物:廃棄物の活用、または廃棄物量の低減
エネルギー:エネルギー使用の低減。
生物多様性:多様なテキスタイルを生産することによって、生物多様性の保護・推進を図る取り組み。または高負担な農習慣によって生産された一次原材料に頼る生産システムから脱却することで、資源の枯渇を防ぐ取り組み。

未来の素材はいつでも手に入る

TSAの活動は、年1度のFuture Fabrics Expoの開催のみにとどまらない。むしろサプライヤーたちの商品を企画会社に紹介するなど、販売チャネル拡大といったマーケティングの支援もしている。予約すれば登録サプライヤーたちのエコテキスタイルを北ノッティング・ヒルのTSAプレスルームで見ることも可能だ。デザイナーも、TSAの専門家によるエコ素材調達のコンサルティングが受けられるうえ、Future Fabrics Expoの全体版ないし縮小版も、中〜大企業向けに随時開催可能である(要予約)。

TSAに登録されている情報に興味がある方へ
TSAに登録されているテキスタイルおよび工場のエコ信用証明とその詳細は、TSAのウェブサイトで随時閲覧可能。TSAに登録を希望する企業・工場は、テキスタイルサンプル、テキスタイル生産についての詳細の説明書および認証の提出が求められる。TSAに登録しているテキスタイル向上はヨーロッパ、アメリカ、アジア、アフリカ各国。出展希望のサプライヤーは、コチラを参照されたい。

次回のFuture Fabrics Expo展
来年のFuture Fabrics Expo展は、2013年9月8〜10日に、デンマークのコペンハーゲンにて開催予定。新設の商談フェアもあり、世界最大のエコ素材展示会となる予定だ。ぜひ訪れてみてほしい。

この記事のキーワード

Keywords

Sponsored Link
この連載のほかの記事

Backnumber

ほかにも連載

Find More Series