「matohu」『日本の眼――日常の中にひそむ「無地の美」を見つける旅』in 金沢をレポート!

A Picture of $name Mie MANABE 2012. 9. 17

金沢21世紀美術館デザインギャラリーで好評開催中の「matohu 日本の眼 日常にひそむ美を見つける」展。8月4日、開催に合わせて行われたワークショップ「身近な『無地の美』を見つける」に行ってきました。そこで体感した、日本人ならではの「美意識」を呼び覚ます心の旅へ、皆さんをご案内します!

会場となったのは、美術館敷地内にある「松涛庵」。日本の風情が隅々まで染み込んだお茶室で、全国から集った15名の皆さんとともにワークショップが始まりました。

「matohu日本の眼 日常にひそむ美を見つける」展示風景(提供:金沢21世紀美術館)

matohu」は、デビュー当初から「日本の美意識が通底する新しい服の創造」を掲げて服を発表しているブランドです。とは言っても、ただ単に「和風」や日本の「伝統的」な染めや織りをそのまま「引用」するのではありません。和のようで和でなく、新鮮でありながら日本人として自分の中にもともとあった感覚がじわじわとこみ上げてくるような不思議な感覚を覚える服ではないでしょうか。

デザインギャラリーで展示されていた、イルミネーション長着。クリスマスの街路樹のイルミネーションをイメージした、現代の「かさね色目」です。夜の中にぼんやりグラデージョンを浮かべながら輝く明かりを、衣服で再現したそう。

デザインギャラリーで展示されていた、イルミネーション長着。クリスマスの街路樹のイルミネーションをイメージした、現代の「かさね色目」です。夜の中にぼんやりグラデージョンを浮かべながら輝く明かりを、衣服で再現したそう。

「matohu」は2010年から「日本の眼」を大きなテーマとし、日本独特の“美に気づく視点”をさまざまな角度から表現しています。今回のワークショップでは、その視点の一つである「無地の美」が取り上げられました。

「matohu」の掘畑さん(左)と、関口さん(右)

ここで、「matohu」のいう「無地の美」とはいったい何なのでしょうか? ハテナの浮かんでいる私たちに、堀畑さんが見せてくださったもの。それは、表面いっぱいにヒビの入った徳利(とっくり)でした。みなさんも湯飲みなどで見たことがあるのではないでしょうか。徳利には、細かい蜘蛛の巣のようにヒビが入っていました。

一見、キズのように見えるそれらの徳利のヒビは、陶器などを焼いた後に冷却する際に、本体と釉薬(うわぐすり)の収縮の差で生まれるもので、「貫入」というもの。貫入は年月と共にその数を増してゆき、使用年数が長い徳利に酒を入れると、貫入部分から酒がゆっくりと外に染み出るようになるのだとか。昔の人々は、そうして少しずつ酒が滴る様子を“美しい景色”として捉え、時とともに刻まれる貫入を眺めながら、さらに陶器への愛着を深めていったそうです。

いまの時代は、陶器にヒビが入っていたり汚れたりすると捨ててしまうことがほとんど。しかし、そんななんのへんてつもないようなものでも、じっと見つめてみると、いろいろな模様の美しさが現れてきます。

特に昔の日本人は、なにげなく通りすぎる日常や自然の中にあらゆる美しさを見いだし、その儚さや繊細さに感動する「眼」を持っていた。この美意識は、世界の中でも実に独特なものであり、日本人が誇るべき“心の豊かさ”ともいえるのではないか。

と、このように掘畑さんは言います。

文化の画一化が進むにつれてモノや情報が溢れ、現代ではそのような“日常の中の美”を見つめることが少なくなってしまった。そこで今回は、美術館の近くをゆっくり散歩しながら、身近にある美しさ=「無地の美」を発見する旅に出かけよう!というわけで、カメラを片手に「matohu」のお二人と15人の参加者が出発しました。


みなさん真剣そのもの。身を乗り出して撮影に臨んでいます。

もちろん、関口さんも。

灼熱の下で無地の美ハンティングをした後は、お茶会で涼みます。こちらは、ふだんお茶会用のお菓子のみを作っている和菓子屋さんで、このワークショップのために「無地の美」をテーマにオーダーされたもの。

和菓子屋さんが、「苔」をテーマに作られた生菓子。上の透明なゼラチンは『苔にポツンと落ちたしずく』をイメージしたのでしょうか。

お茶会ですが、目の前に置かれていたのはワイングラス。ワイングラスで茶葉と水だけで作られた完全無添加の高級玉露ほうじ茶「香焙(KAHO)」が振る舞われました。その名の通り、香りが素晴らしく、甘いです!

そして「無地の美」のお披露目会がスタート。

皆さん、とにかく視点が斬新でした。車の真っ青なボディーを接写で撮影し、微妙な光の加減で、大地・空・太陽・そして富士山を映し出した写真。わざと葉っぱをぼかして撮影して、淡いグラデーションを写しとった写真。すごい勢いで流れている滝を撮影し、鋭さが光る無数の線がモード感たっぷりの写真。ワイングラスに映し出された、小さな世界を撮影した写真……などなど、同じ道を歩き、同じ物を通り過ぎているのに、人が見ているものはこれほど違うのだと感じます。

恥ずかしながら、筆者のキャッチした『無地の美』を少しご紹介。

今回のワークショップで「無地の美」を意識して生活するようになってから、立ち止まっていろいろなものを凝視してみたりカメラを向けたりして、なにげなく通り過ぎていた風景が何倍にも繊細で鮮やかに見えるようになりました。『ささやかなことにも、より多くの感動を味わおうとする心』が持てるのは、本当に幸せなことだと思います。四季の魅力に溢れる日本に育ったからこそ、細やかな気づきを持つ心を育んでこられたのでしょう。

いま、このときに感謝すること。そして、ちょっと歩みを止めて目を凝らして見ること。そうやって毎日を大事に過ごす味わい深さにもあらためて気づくことのできたひと時でした。みなさんもぜひ、道端や職場で、または学校や近くの公園で、ちょっと足を止めてみてください! 自分だけの「無地の美」が、万華鏡のように目の前に広がっているかもしれません!

「matohu 日本の眼 日常にひそむ美を見つける」

日時:2012年11月25日(日) まで開催中。
営業時間:10:00〜18:00(金・土曜日は20:00まで)
会場:金沢21世紀美術館 デザインギャラリー
休場日:月曜日(ただし、9月17日、10月8日は開場)、9月18日
料金:入場無料
主催・お問い合わせ:金沢21世紀美術館(076-220-2800)

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