【連載】ヨーロッパのエシカルファッション【全9回】

筆頭成長株のブラジルファッション産業を考察

A Picture of $name texƧture 2012. 8. 21

Written By:Ilaria Pasquinelli of texSture.

ブラジルのライフスタイルを語る際に必ず出てくるのが「カリオカ」である。「カリオカ」とは、リオデジャネイロっ子の愛称。彩り豊かでダイナミック、楽しくて明るい――ブラジルでの生活を想像するときにはきっと誰もがこんなイメージを思い浮かべるのではないだろうか。6月、このリオデジャネイロに2回訪れ、これはあながち嘘ではないと感じた。人々は皆温かく、常に笑顔。リオのような大都会でも自然が溢れ、人々は自然を愛しているのが伝わってくる。そして毎晩遅くまでパーティに繰り出すのだが、そういった彼らの生活はまさに『無理しないで楽しもうよ』というものである。

世界で最も有名であろうビーチサンダルブランド「Havainas」は、このイメージをふんだんに取り込み、世界に名を馳せるブランドに成長した。今回のトピックは、ブラジルのファッション産業は、果たして自国が持つイメージを利用して世界の中で独自の地位を占めることができるだろうか? という点である。

ブラジルアパレル

まず、ブラジルアパレル産業が提供できるものにはどんな選択肢があるだろうか? まず挙げられるのは、デニムと水着である。世界2位の水着生産国であり、世界3位のデニム消費国家なのである。夏物市場としても規模が大きい。

かつてはもっぱらデニムや水着を中心に語られていたブラジルアパレル産業であるが、今や服飾の分野でも世界の注目を集めている。現在、ブラジルからは才能豊かなデザイナーが、ほかの新興国と比べても際立って多く輩出され、サンパウロやリオデジャネイロのファッションウィークを盛り上げている。彼らは自国の巨大なアパレル産業に支えられている。ブラジルには3万のアパレル工場があり、毎年950万着が生産されている(*ABIT)。そしてアパレル産業従事者が世界で2番目に多い国である。

ブラジルブランドのサステナビリティ

そんなブラジルアパレル産業では今、サステナビリティへの注目が集まっている。ここで疑問だが、ブラジルの人々にとってサステナビリティとはどういった意味を持つものなのだろうか? なぜ、サステナビリティに注目しているのだろうか? ブラジルは、1600万人がいまだ格差にあえぐ国である(平均して一月の収入が70レアル≒42USD)。一般的に、サステナビリティの重要性は、環境保護的な側面より社会問題的な観点から語られているようだ。


ヨーロッパでは『トロピカル・プラダ』とも呼ばれる「Osklen」や、サンパウロファッションウィークの注目の一つ、「Ronald Fraga」などは、ブラジル北東部の少数民族の女性たちと刺繍をコラボした作品を発表した(全てが大成功に終わったわけではないが)。ロンドンやニューヨークでも活躍する「Carlos Miele(カルロス ミーレ)」は、Coopa Rocaというリオデジャネイロ最大のファヴェーラであるホシーニャ(Rocinha)の女性たちの雇用創出を支援している。政府レベルでは、ルーラ前大統領が2010年の任期切れ直前にフェア連帯トレード法を承認し、現・シルバ大統領も引き継ぎ、フェアトレードの振興を図っている。実はこの国では2006年にも、中小企業でも公共調達に参加できるよう特別措置を行う法を発効させている。

ブラジルのエコ事情

このように、ファッション面では社会問題的側面のほうが目立つが、そもそも環境的理由におけるアプローチは国全体で活発な国なのである。ブラジルは再生可能エネルギーの利用を国策として進めた結果、全エネルギー供給のうち、45.9%(2008年、MME)が再生可能エネルギーで占められている。ガソリンの代わりに、サトウキビを原料とするバイオエタノールや、電力供給を水力発電に多く依存していることがその要因である。実際にブラジルの電源構成を見ると、電力供給の約8割を水力発電が担っている。ちなみに、イギリスでは3%、EU全体では14%である。日本はというと、12%を占め、これは世界平均と同じである。

さらにアパレルにおけるサステナビリティに関する研究も盛んに進められている。ブラジルファッションデザイナー協会(ABEST)は、メンバーブランドのサステナビリティに関する査定を導入することを検討中であるという。また、ブラジル繊維・アパレル産業協会(ABIT)は、国内の研究機関と連携して国産のサステナブルなテキスタイル素材の開発に取り組んでいる。これらの取り組みは数多く実施されており、それぞれ川上から川下まで網羅している。

「メイド・イン・ブラジル」を目指して

このような要素を考えれば、ブラジルはアパレル産業におけるサステナビリティ推進の旗手になれる十分な可能性を有しているといえるだろう。世界最高峰の研究機関とともに可能性を広げ、それを活用する重要性を理解しているテキスタイルメーカーやデザイナーも国内に十分にいるのだ。

もちろん、この成功には、研究機関と各協会のプレーヤーたちによる密接な連携が欠かせない。彼らは、サステナビリティがビジネスにおいて活用可能であることを示し、政府による推進支援を獲得しなければならない。しかしこれが成功したあかつきには、ブラジルアパレル業界はより豊かなデザインに溢れるものとなるに違いない。ブラジルが持つ豊かな自然とコスモポリタンな社会構造からインスパイアされた独特の完成を持つデザイナーたちが、新しいテキスタイルを活用してどんな革新的なデザインを提案するかが楽しみでならない。

「メイド・イン・イタリア」はデザインと品質の証。「メイド・イン・ドイツ」は最適化と信頼の証。「メイド・イン・イギリス」はエキセントリックさと若さの証。「メイド・イン・ブラジル」が、同じように肩を並べるラベルになる日も遠くないだろう。ブランディングコンサルのFutureBrandが発表する国家ブランドランキングで、ブラジルは31位(2011年)につけ、順調にランキングの階段を登っています。今後も、この国のアパレル産業に期待!

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