2012年6月に発売開始となった書籍『Overdressed: The Shockingly High Cost of Cheap Fashion』(※日本語版は未発売)。タイトルの意味は「驚くほど安い服の、すさまじく高いツケ」といったところでしょうか。
著者のElizabeth CLINEさんは、それまでずっとアウトレットやディスカウントモール、「Forever 21」「H&M」「Target」などのプチプラ服を好んで購入していたそう。気軽に買い続け、気づけばクロゼットに、コピーされた似たような服が何枚も何枚もあふれていたそう。その光景を見て、「何かがおかしい」と感じて本書を執筆したと言います。
―― ファッションにはもうコピーされたスタイルしかないのかしら。つまり、オリジナルなものっていうのはもはや生まれてこないのかしら?
あると思うわ。けど、オリジナルなものっていうのは、雑誌やショップにはないのじゃないかしら? ショップのラックに掛かっていると、いかにもモダンでそれらしく見えるもの。40代、50代の方が現在着ているデザインですらすでに使い古されたアイディアで、それを何度も新しく見せ直しているのよ。
いずれにせよ、自分なりにカスタムすることでしかオリジナリティって具現できないのじゃないかと思ってるの。先日、インディペンデントなブランドで新しくノースリーブブラウスを買ったんだけど、早速お直し屋に持って行って、ボタンの位置を直してもらったわ。一番首元までボタンが止まるようにね。それだけで、このブラウスは「真に自分のスタイルを表してくれるもの」って思えたわ。
―― あなたの本の中で、アメリカのアパレル産業はコピーすることで顧客のニーズをむさぼりつくしているという表現があったわね。それについて教えてくれる?
アパレル産業はコピーすることで儲かっているのよ。その規模は半端じゃない。流行のスタイルをコピーすれば買う人が増える、さらにコピーすればさらに買う人が増え……というふうにして回っている。それでコピーのスピードは日に日に早くなって、過去のスタイルが再び市場に出回るスピードもどんどん早くなっているわ。
―― 次から次へと服を買ってしまうのって、社会がおかしいのかしら? それとも個人の問題なのかしら? どっちも同じことを指しているのかもしれないけれど……
アパレル業界に消費の仕方っていうのを叩きこまれているんだと思うわ。企業や戦略が大規模なものになるにつれ、じわじわと服のデザインから細部のディテールを奪い、クラフトマンシップをそぎ落としていった。もちろん、素材も見かけ倒しのものにすり替えて。そうして、服を購入し着てきた人々が情報を共有し、互いの知識を評価・修正し合いながらコンセンサスに至っていくという討議的なプロセスによって得た、「服とはどうあるべきか」についての知識を奪っていったのだと思うの。今、服がどうあるべきかという点で重要なのは、ブランドネーム、主力プライス、そしてトレンドだけ。
―― 今、古着屋さんが人気だけど、それは人々が安い服を求めているからなのかしら? それとも、再利用する必要性に駆られてのことなのかしら?
私は、みんなが個性的な服を求めているのだと思うけど。だって、世界中で自分と同じプリントがほどこされたTシャツを見かけることだってあるのよ。そういう同一性に反発したくなるのは自然のことだと思うわ。ヴィンテージアイテムが人気なのも、古着みたいにチープじゃないし、安上がりに見られないで、個性を主張できるからじゃないかしら。
―― ヴィンテージといえば、ヴィンテージが『お金持ちの娯楽』と形容したわね。それについてもひと言。
大量生産系のショップで売られてる新作っていうのは、どんどん品質が下がってる。糸、布、ボタン、ジッパー……どの素材もろくな品質なものを使わなくなってきたし、縫製だっていいかげんになって、ディテールにこだわるデザインも少なくなり……。ヴィンテージが人気なのって、そういった失われつつあるものが全部詰まってる「ホンモノ」だからじゃない? でも、そういったヴィンテージの服はばかげるほど高いわ。でも「ホンモノ」を求めて人々がヴィンテージに目を向ければ向けるほど、価格は高騰していく。お金持ちしか買えないわよ。
―― 「H&M」が主力プライスを少し高めに設定した新しいショップチェーンをヨーロッパで展開するわね。それはファストファッションショッパーズにどんな影響を与えると思う?
消費者に与える影響よりも、インディペンデントなデザイナーに与える影響に興味があるわ。エシカルかつ小ロットで生産しようとしている彼らは、消費者が納得する価格で売ろうと必死。でも「H&M」がしたことって、消費者が納得する価格っていうのをとんでもなく下げたってことなのよ。「H&M」は、規模の力で競合の半分程度の価格で売り出しているのよ。世界に何千とあるショップと、到底さばききれない量の服を作ってね。「H&M」よりちょっとでも高い値段を付ければ、消費者は「高い!」といって買わない。「H&M」が、「適切な価格」っていうのをすっかり塗り替えてしまった。それはちょっと空恐ろしいことだと感じているのよ。
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