Written By:Dr. Pamela Ravasio, Twitter: @PamelaRavasio, director of texSture.
消費者は企業の社会貢献活動に懐疑的
2011年に発表された消費者意識調査の結果によれば、イギリス・アメリカ・カナダの消費者の52%は「社会貢献活動に関連する商品は、企業の誠意・真意からくるものではない」と思っているということが明らかになった。チャリティー商品についても、88%は商品購入に伴う寄付金が本当に指定の団体などに送られているのかについて懐疑的な目を持っており、75%は、「社会的意義のある商品」について顛末を含めたサプライチェーンについて、企業は十分な情報を開示していないと感じているという。
これらの数値が示すのは、消費者が「企業は『グリーンウォッシュ』(※環境配慮をしているように装いごまかすこと[wikipedia])をするものだ」と認識しているということではないだろうか? 同調査ではさらに、多くの消費者は企業の「社会的活動」を揶揄しているという。また企業が発行するCSR報告書に書かれている事柄が真実だと思っている人は少ない、とも。これはすなわち、企業が本当に社会のサステナビリティを考慮した商品開発やアクションをしても、それをアピールする手法がまずければ、消費者の信頼を勝ちえないということだ。しかしファッション産業について言えば、これは驚くべき新事実というほどのことではない。なぜなら、オーガニックコットン使用と謳っていても実は違うといったラベル詐称や、有害物質を使用したエセ・オーガニックコスメなどもザラにある。チャリティー事業を行いながら、スウェットショップなどの労働環境が劣悪な工場で生産を行なっているなんていうニュースも、日々聞き飽きるほど飛び込んでくるのだから。
同報告書ではさらに、社会のサステナビリティに対する取り組みや、それらにまつわる活動倫理が企業活動の核を占めるものであることを望んでいる。上辺だけでサステナビリティに取り組むなど、すべきでない。それは、火を見るより明らかだ。
それでは消費者は、本当に誠意を持ってサステナビリティに取り組む企業かどうか、どのように見分けたらよいのだろうか? それには、透明性の高い方法で消費者とコミュニケーションをとっていくよりほかはない。消費者は、「社会貢献活動をしてますよ」「寄付をしていますよ」という姿勢のアピールだけでは納得しない。この消費者の要望は、企業の大小に関係ないものである。
それでは、商品の社会性を含めたサプライチェーンは、どのようにして消費者に証明すればいいのだろうか? 各種認証ラベルを取得するほかにも方法はないだろうか? 私がまず思いつくものとしては、次の3つが挙げられる。①ISO26000などの国際規格のガイドラインにを自社の基準と照らし合わせ取り入れる、②IT技術を駆使する(電子タグを用いたウォルマートの完全トレーサブルなジュエリーコレクション『Love, Earth』や、関わる生産者をオンライン上で公開する『IOU Project』、Google Mapを使用して視覚的にサプライチェーンを開示する『Rapanui』など)、③企業と消費者の協働団体・ProfitThroughEthicsが発表した「透明性についての44の質問状」に回答する、というのはいかがだろう?
そもそも、サプライチェーンを順を追って開示する(トラッキング)は、消費者から賞賛を浴びる行為であるだけでなく、新しいマーケティングの機会を創出する。その3つの理由をご紹介しよう。
サプライチェーンの開示はマーケティングのチャンスを生み出す
①商品品質の信頼性が増す
バッグ、靴、指輪など、どんな商品の生産チェーンをしっかり開示する。それは商品の価値を明らかにすることであり、確かな品質を持つものならば、確実に信頼性を高めることができる。
チープな贋作が生産されるほど、ブランドの価値が高いという側面もある。そんな中、ブランド側は、どんなによくできた偽物と比べてもはっきりと見分けられるような品質の物を作り出すことに注力している。サプライチェーンを公開することは、そんな努力を後押しすることができる。
②商品にストーリー性と独自性を持たせることができる
商品の材料とどのようなステップでそれが作られたかは、その商品に「個性」を与える。
例えばレザーバッグなら、牛皮はどこから来たものか、どんな生産者がどんな工場でどのようにして作ったのか、ということである。大量生産の企業にとっても「どうでもいい」作られ方をしたものではなく、まるでオーダーメイドのように一つ一つ丁寧にあつらえられたものであることを知れば、大切に扱う気持ちが自然と芽生えるものである。それに、世界にたった一つしかないものを所有することに喜びを感じない人はいるだろうか? ファッションを愛する者なら、当然の喜びではないだろうか?
③消費者との関係性をマネジメントできる
ブランドアイテムの所有者なら、その製品がどうやって作られたか知りたいならば、こういう手法も可能になる。インターネットを使用した会員制のサイトで、顧客限定の情報を配信するというものだ。それはすなわち、より詳細に顧客の姿を把握することにつながるのではないだろうか。メンバーシップを取得するにあたって提出される諸々の情報――彼/彼女は何歳だろうか? 同じブランドのどういったアイテムを所有しているのか? 収入の何割をこのブランドに割いてくれているのか? などのデータを集めることができる。
言わずもがな、個人情報保護についての手間を考えればたいへんであることは否めないが、顧客データの有用性は無限大である。個人向けキャンペーンもより効果を発揮するようになるだろう。
まとめに
最後にまとめだが、これまでアパレル企業の多くはサプライチェーンの透明性に関する規約にサインをしても、あまり主体的にそれと関わってはこなかった。あからさまにPR戦略だと分かるものも多かった。しかし、自分の支払ったお金は何に対する価値なのか、そして何に使われるものなのかを知りたいという消費者の声はますます強まっている。さらに消費者は、価値に値するものならば、多めに支払ってもよいと回答している。
サプライチェーンのトレーサビリティで顧客と関係構築をすることは、一つの商品と一人の消費者の間に紡がれるストーリーに対して敬意を持って尊重するということである。その方法を確立することによって、よりパーソナライズされた新しいマーケティングの方法が導き出される可能性が秘められているのである。
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