形を変えることで、新しく紡ぎ出される思い出もある「LOOP CARE」で古着を仕立直しませんか? 〜リシュラ・浜口緑さん

A Picture of $name 鎌倉 泰子 Photography: Courtesy of LOOP CARE 2018. 2. 24

H.P.FRANCE所属のバイヤーとして、「destination Tokyo」「goldie H.P.FRANCE」「TIME&EFFORT」などのセレクトを手がけて牽引してきた鎌倉泰子さんが、気になるブランドを訪問。その魅力やものづくりに迫ります。

今回訪ねたのは、一風変わった「仕立て直し」の企業さん。「LOOP CARE」というサービスは、お客さまから持ち込まれた思い出の服を、ただ新しい服に作り変えるのではありません。思い出をとっておくためのアルバムや日傘、愛犬のお洋服に、カードケースやジッパーシェルフなどに仕立て直し、新しいかたちでそばに置いておけるよう提案しています。


お客さまから持ち込まれた生地から作った傘の例。



持ち込まれるのは、古着だけでなく、お客さまの思い出。その話に思わず涙が流れることも……。ビジネスを立ち上げた浜口緑さんに話を伺いました。

形を変えることで、新たに思い出が生まれる 「LOOP CARE」

鎌倉: これからもさまざまな商品が生まれそうですね。

浜口: スタッフの声は本当に貴重です。ドッグウェアも、ペットがいる社内のスタッフのアイデアですし、ほかにも「地球儀」などいろんなアイデアがありました。近いうちに、10種類くらいにはしたいです。
これまで、本当にいろいろ試しましたよ。生地を粉砕して樹脂と混ぜて植木鉢を作ったときは、思い出が形として見えにくく、「思い出を扱う」というより「エコ」の部類に入るのでやめました。

ドッグウェアの一例。アパレル企業の方から、「在庫や残反をやむなく処分しているのが心苦しい、疑問を感じている」という話を受けることもあるという浜口さん。「『LOOP CARE』は、環境にも良い取り組み。その活動に共感し、さらにできあがったプロダクトがかっこよければ、「エコ」という切り口から参加する人もいるかもしれません。その面で、「LOOP CARE」に関わること自体が満足感になり利用する、という入り方もあるかもしれない、と思っています」。

鎌倉: 物理的に作れても、「わざわざ自分たちがやらなくてもいいのでは?」と思うということですよね? 「素材は同じで、ただ形を変えることに意味があるのではない」というところが、作る商品を決めるうえで最も大事なところなのですね。

浜口: そうです。「LOOP CARE」というサービスに至ったのは、コンサルティングしてくださったクリエイティブ・ディレクターさんの、「布から布のアイテムを作るのは、手芸が得意な人なら思いつくものも多い。そういったものはいますぐにやらなくてもいい。そうでないものを作ってこそ差別化」との言葉があったから。だから「これがこの布からできているの?」という、驚きのあるものを作らないといけないと考えて生まれたサービスです。

ジッパーシェルフの例。

鎌倉: 「LOOP CARE」で展開されているのは、犬の洋服、アルバム、日傘、カードケース、ジッパーシェルフのうち、一番ご要望が多いのはどれですか?

浜口: アルバムが一番多いのかなと思っていましたが、実は日傘が一番人気。【洋服から傘】というサービスが、あまりないからかもしれません。傘を作るのには、生地の分量も必要ですが、足りない場合は私たちが用意しているリサイクルコットン生地の中から提案しています。実は、傘は社内で作っているんです。最初は東京の下町の傘職人さんにお願いしようと思っていたのですが、どうしても希望の値段にするにはロットが合わない。そこで、職人さんに弊社に来てもらい、弊社工房のスタッフに半年くらい修行してもらったんです。専用のミシンも導入しました。


鎌倉: それはすごい!

浜口: 傘は、生地に合わせて木型が何百型もあるんです。生地の弾力、厚さや強度が違うので、職人さんは、生地を触ってから一番合う木型を選びます。お客さまの持ち込む生地はもともと傘用ではありません。だから、一つずつ微調整が必要で、これがとても苦労しました。失敗すると、差したときにシワがよってしまうんです。何本か作るものは「テスト」ができますが、お客さまに合わせた「一つだけ」を作る私たちにそれはできないので、一本ずつ真剣です!

鎌倉: 形を変えることで、新しく生まれる思い出もあるかもしれませんね。

浜口: それは私たちとしてもとっても嬉しいことだと思っています。「GOOD STORY CONCIERGE(すてきなストーリーのコンシェルジュ)」を自社のコンセプトにしてしているので、どんな思い出をお持ちなのか、じっくりお話を伺うことを大切にしています。
いま、「LOOP CARE」に持ち込まれるのは、「遺品」「形見」が一番多いのですが、あるとき、亡くなったお母さまが仕立た着物の生地を持って来られたお客さまがいました。姉妹2人でおそろいの日傘を作られたんですが、生地にシミもあったんです。でも、それも残して、妹さんはシミがないほう、ご自分にはシミがあるほう、と作られたんですが、お渡ししたとき、「母がまた自分を包み込んでくれているみたい」とおっしゃってくださいました。
絶対に失敗は許されないので、お預かりした生地にはさみを入れるときは手が震えるほど緊張します。でも、そういった場面に立ち合わせていただけると、「やらせていただいてよかった!」と、強く思います。

鎌倉: 思い出を分け合ったのですね。はさみを入れるとき、私だったらどんな気持ちかな……。

浜口: 製品をお客さまにお渡しして最初の一言をいただくまでは、息が止まりそうに緊張します。
できた商品が、「家族で、亡くなったお祖母さまの話をするきっかけになった」ということもありましたし、「あまり気が合わなかった父だけど、父のことをまた考えるようになって、『あのとき、本当に言いたかったことは違うことだったんだな』と、思えるようになりました」と、おっしゃっていただいたり……。ほかにも「子どもが小さかった頃の思い出を残したい」「就職して初めて頑張って買ったスーツを残しておきたい」などなど、本当にたくさんの思い出に立ち会います。製品を手にして、「あのときの自分を褒めてあげたい」「気づけなかった気持ちに気づけた」と、言っていただいたりすると、思い出を彩ることができたようで、本当にありがたい気持ちになります。
こうして、誰かや昔と同じものを身に着けることで、人との絆につながったりするのが、いまの時代に必要なのではないかな、と思います。

カードケースの例。最近、傘を作るスタッフのお子さんが、学校で将来の夢について作文を発表。そこには、「大人になったらリシュラの仕事をしたい」と書かれていたそう。「ふだん仕事についてそんなに話しているわけではないのに、誇りを持って取り組んでいるのを感じてくれていてとても感動した」と話したスタッフとそのお子さんのことを、浜口さんは苦しいときに思い出して気を引き締めるそう。「手作りの商品を売っているだけではなく、なにか人生の節目に笑顔をもたらすような仕事に、お母さまが関わっているということが伝わっていたのですね」と、鎌倉さん。

鎌倉: 聞いてる私もうるっときます……。家族や思い出と聞くと、やはり震災を思い出す方も多いと思うのですが、震災を境に、なにか変わったことはありますか?

浜口: それは特になかったと思います。広島は、70年前に戦争でなにもかもなくなってしまった土地で、古いものはあまり残っていませんし、役場や図書館も焼かれ、「リール・シュール・ラ・ソルグ」の村の蚤の市のように、「人が集まる目的になるもの」もなくなりました。一度ゼロになってしまった都市なんです。そういった意味では、【良いものは大事にして次の世代につなげていかなければいけない】という思いが、無意識のうちにあるのではないでしょうか。楽しい時間は当たり前にあるものではないし、そういうものがあれば自分たちの手で守り、次の世代に伝えなくてはと、小さいときから教育されているんだと思います。いつか、教育の現場でなにか取り組んでみたいと思っています。

次の時代は、「ものを通じてなにを感じられるか」

鎌倉: この後、ファストファッションを身に着ける世代が控えているわけですが、そういう世代の若い人たちは、服そのものへの思い入れも違います。服を思い出として残そうと思うのかな? と、思うことがあります。

浜口: おっしゃるとおりで、そのときまでに、どうするのかを考えなければいけません。時代の変化を拒否するのではなく、時代に合うやり方を考えるべきだと思うので、私たちのメッセージを、ほかの方法で伝えていきたいと思っています。

アルバムの例。

鎌倉: 「大切な人の思い出を大事にすることに時間とお金を使う生き方を選ぶ」「地球環境に優しい取り組みに共感する意志を表す」かどうか、ですね。この先また10年。どうなるんだろう。

浜口: 少子高齢化が叫ばれてもう久しいですし、人口が減っていく中、「生きていく価値をなにに見出すのか?」を考えると、もう「ものの所有」ではないことは明らかです。ものを通じてなにを感じたいか。ものを通してなにかを考えるようになる流れは、間違いないと思います。

鎌倉: 「LOOP CARE」は、忘れていた素敵なことを思い出させてくれて、自分を見つめなおす機会を作ってくれたり、応援してくれたり。アパレル企業にとっても、本来あるべき道に向かおうとしているときに、同志がいることを教えてくれる。本当に、「CARE」という言葉がぴったりですね。

浜口: ありがとうございます。私たち「リシュラ」の存在意義は、「一人ひとりが心豊かになれるような社会作りに貢献する」ということ。どうしたら「心豊か」になれるのか。その一つの答えとして、「LOOP CARE」での「思い出作り」があります。
「思い出」にフォーカスすると、「いま」や「未来」に向けて、気づくことがたくさんあります。かけがえのない思い出があれば、どんなことがあっても心豊かになる自分を取り戻せます。一人でも多くの方のかけがえのない思い出を、さらに色鮮やかにするためのお手伝いをさせていただきたいと思っています。

(インタビューはここまで)

いまはもう近くにいない誰かの気配を形にしたり、「ふつうの思い出」だったのを「良い思い出」にしたり……。「思い出」の話を伺いながら、インタビュー中なのに涙がこぼれて、無言で下を向いてしまうことも……。私も、ウチの「毛むくじゃらの妹」のためのお洋服を、検討させていただこうと思っています。

LOOP CARE

【website】https://loop-care.jp/
【tel】0120-947-858
【instagram】@loopcare

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