H.P.FRANCE所属のバイヤーとして、「destination Tokyo」「goldie H.P.FRANCE」「TIME&EFFORT」などのセレクトを手がけて牽引してきた鎌倉泰子さんが、気になるブランドを訪問。その魅力やものづくりに迫ります。
今回お話を伺ったのは、香川県東がかわ市で猪の革を使ったアイテムを作る「五色の里」の西尾和良さん。「GOMYO LEATHER」と名づけられたこのブランドは、害獣として駆除された猪の皮を使っています。
害獣駆除と聞くと、ネガティブなイメージを持たれる方もいるかもしれません。しかし、こうした事態が生まれたのも、人と動物たちが共存するうえで欠かせない里山や森林の「手入れ」が足りなくなったからだと西尾さんは話します。
「森林伐採は良くない」「豊かな緑を守ろう、増やそう」という声も大きい昨今。見逃している大切なことを、西尾さんに教えていただきました。
「GOMYO LEATHER」が目指すもの
鎌倉: あらためて、「GOMYO LEATHER」のアイテムを見せていただいてもいいですか? なめしにもよりますが、牛革みたいにピンっと張った感じでもなく、豚のように毛穴も目立ちませんし、馬革のようなパリっとした感じともまた違いますね。なめすときの注意点はあるんですか?
西尾: なめし業者さんから言われているのは、「雄はダメ」ってことですね。雄の「鎧」と呼ばれる脂でできている部分は、ナイフも鉄砲の弾も通らないくらい硬いんです! あと、大きすぎる個体も使えません。強くてけんかをたくさんしていて、傷が多いんです。そうなると中型の雌が良いですね。また、皮を切るときは「鋭角」になる部分を作ってはいけません。角から切れやすくなってしまいます。
鎌倉: 堅牢度を含め、事業として拡大していくには、事例や数字で可能性を示していくことが必要になりそうですね。そうすれば、これから、珍しい革を使う仕事に従事する若い方にとっても、やりやすくなります。革は全く同じものを作ることが難しいということもありますが、生産背景を整えて品質を安定させていく必要もあります。
西尾: こちらは早く色に呼び名をつけたいのですが、毎回全く同じ色が上がってくるわけではないので名前をつけられません(笑)。いまは、なめしも色の調合も職人の感覚に頼っているところがありますが、職人さんたちの経験だけでは限界があります。追加でお願いしたくても、皮自体のコンディションにも左右されます。
鎌倉: しかし、名刺入れが25,000円〜(税別)で、財布が50,000円〜(税別)と、なかなか強気なお値段ですね。
西尾: やはり手間がかかって、1枚の革を作るのに、職人さんたちは、2カ月くらいかけて試行錯誤してくれています。牛革、豚革を扱うときの常識が当てはまらないのだそうです。また、猪は、熱湯で毛をそいで、皮も食べる地域もあるんです。だから、害獣とはいえ、鹿や熊ほど皮が出回らないという面もあります。
鎌倉: いままで存在しなかったものに値段をつけるのは難しいですよね。普及させるために薄利多売が良いわけではないし、値段が高くなる正当な理由もありますし。
西尾: ただ、この「値段」が武器になると思ったんです。猪革が安くないことを逆手に取ろうと。「なんでこんなに高いの?!」という驚きが入り口になって、いずれどれだけの道のりと思いがあって商品になったのかまで興味を持ってもらえたらな、と。
鎌倉: 見ただけでその商品ができるまでの努力や、技術のことが分からなくても、「これが欲しい!」と思ってもらえる商品そのものの力は大事。その手に取るきっかけをどこに作ったかの違いですね。
西尾: 工場の通常の製造ラインを止めてまでなめしてもらっていますし、ロットの問題もあるので、いまよりは高くならないよう、これから調整していきます。
命の循環 全ての流れを理解して作る
西尾: 僕は「GOMYO LEATHER」で儲けを出すことが目的というより、里山を守ることが最も大事だと思っていて、猟師さんにもっとお金が回るようにしたいんです。
猟師という職業は大変ですが、それに見合う給料がちゃんともらえるということが伝われば、猟師という仕事を選ぶ人が増え、猪が減り、田んぼが作れるようになります。里山での生活を支える人にそれなりの対価が支払われなければ、ここで生きることに魅力を感じてもらえませんし、続かないでしょう。革製品の値段も、そのシステムの一つです。
鎌倉: 猪が取れたから捨てるのはもったいないので食べましょう。ついでに皮も使ってみましょう、というだけでは商品としての完成度は低い。みんながおいしくいただき、それに興味を持つものになるところまで持っていくには、みんなかそれぞれの効率を考え、個人の利益のためだけに作業をしていては難しいということなのですね。撃つ猟師さんに始まり、なめしやさん、加工業者さんも、全員が一連の流れとして最後にどういったものになるかを理解していないとできないことです。
西尾: 「五色の里」は、猟、解体を5人の仲間でやっています。自分たちで獲った皮以外は扱いませんから、クオリティは下がりません。もちろん全て五名で捕れた猪です。猪の命をどう使うのか、全体を分かって獲らないと、使える部分が減ってムダが増えます。他県では、生きた猪しか仕入れないという生肉業者も出てきたそうです。そうすれば血抜きもきちんとできますし。
鎌倉: 猪の革に限らず、「地産地消になるので、使うことに意味があるんです!」と言う方もいると思うのですが、ものをムダなく使っていくことだけに焦点を当てるのでは、けっきょくムダが出てしまいますね。「害獣駆除」とだけ聞くと、マイナスのイメージを抱く方もいるかもしれませんが、お話を伺っていると、西尾さんは全ての事業を、里山を活性化させる産業全体として包括的に見ておられ、「自然との共存を目指して未来を描いている」のを感じます。
西尾: いまは農業の面で補助金をいただいていて、里山のことを考えながら、余力でなんとか「GOMYO LEATHER」に資金を使うことができています。サラリーマンだったときは、週末や休暇のために働いていましたが、いまは毎日やっていることが未来につながっていることや、自分が前に進んでいることを実感できます。一日いちにちが大事で、とても楽しいし充実しています。山から転げ落ちたり谷底へ落ちかけたりしたこともあります。農業・林業は危険が伴いますが、そのたびにさらにやる気が出ます(笑)。
鎌倉: 1年後のご自分を描けますか?
西尾: 経営計画は5カ年計画になっていますが、残念ながら予定どおりにはいきません。でも、忘れてはいけないのが、なんでも昔、「初めにやった人」がいるということ。ここでやっていることも僕が世界で初めてやっていることではない。工夫をすれば、きっとなんでもできると思うんです。
いまの僕にとって理想的なのは、町で心地良い生活をしながら、里山を「職場」にすること。僕が里山を活性化させた成功者になれば、もっと柔軟に里山や農業に関わることができ、人も増えると思うんです。それで、みんなが毎日を悔いのないよう、一生懸命、楽しく生きていければ、経済は自然と良い方向に向かうんじゃないかなと思っています。
(インタビューここまで)
ジビエとして「猪」が注目を集めているな……と、思っていたところ、出会った「GOMYO LEATHER」。
今回のインタビューでは、道具の使い方から考えさせられるお話など、「怒り」だってあるはず……と感じるお話も。幅広く楽しいお話を聞いて、「笑いあり涙あり」の時間でした。西尾さん、ありがとうございました!
ちなみに個人的には、次は新たに「熊」の革ももっと増えてくるのでは? と、思っているところです◎
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