コンサルからフラワーデザイナーへ転身した思いは『花も人も、個性を生かし合う世界が好き』 「装花TOKYO」杉山香林さん

2017. 7. 10

明大前駅から徒歩1分。昭和のバーの風情が残る雑居ビルの2階に、「装花TOKYO」のアトリエはある。

階段を登って扉を開くと、みずみずしい緑に混じって、アンティーク食器のような柔らかい輝きを放つ青紫のラークスパーやマゼンダピンクのカーネーションといった花々が出迎えてくれた。

でもその中で最も輝く花は、店主でありフラワーデザイナーの杉山香林さんだ。

花に携わる前は、CSRコンサルタントとして働いていた杉山さん。この大胆な転身には、通底する一つの思いがあった。

「〜したい」のきっかけになるものも見つからず、勇気も出なかったという杉山さんに、転機は突然訪れた。

2015年4月。

とあるパーティで、一つの風景に、一瞬にして心が包み込まれた。

それは、会場を彩る装花。部屋いっぱいに飾られた花に息を飲んだ。

不思議ですね。あれだけ感動したのに、なんの花だったかは全然覚えてない(笑)。でも青と白の花だった気がするんです。

振り返れば、一風変わった会場装花だったわけでもない。でも、なぜか、「好き」という感情が抗えないほど強く、湧き上がってきた。

そしてその瞬間、ハッと思い浮かんだ。「これほど花にときめくのなら仕事にすればいい!」。

自分でもびっくりしました。『私、花にこんなに感動することができるんだ!』って。たった一瞬で職業を変えようと思い立った自分にも驚きました(笑)。

花をやりたい。

唐突に。しかし確かな強さで、そう思った。

しかし、ほぼ初めての「〜したい」。果たして、この気持ちは本当なんだろうか?

自分の気持ちを試すべく、杉山さんは土日だけ、花屋でアルバイトを始めたが、たちまち手応えを感じた。花に触れるたび、「好き」の気持ちが強くなった。

全く苦じゃなかったんですよ。寒い朝に市場に行くのも、力仕事も。自分でも自分がこんなに花にときめくんだって、びっくりしたくらい!

確信を手に、杉山さんは早速事業の整理を始めた。同時に、さまざまな講座などへ参加し、腕を磨いた。

2016年の秋には2カ月間、ヨーロッパで武者修行へ。

そうしていま、「装花TOKYO」のアトリエは、明大前にある。

余った花材はドライフラワーにしている。アトリエにもあちこちドライフラワーのブーケが。

いま、日々花に触れながら、杉山さんは思ったことがあるという。

農耕が発展した後の日本では、自然界の万物には神様が宿ると考えるようになりました。川にも、樹木にも、岩にも。だから日本では、自然は人間がコントロールできるものではなく、敬い、ともに生きつつ畏怖するもの、という自然観が育まれたのでしょう。

例えば、昔、東京には堀川が張り巡らされていたそうです。高潮がきたとき、波の力を分散させて「いなす」ためです。それって、自然のエネルギーに人間が対抗するのではなく、生かしていたってことですよね。

なのに、現在は例えば「大きな津波が起きたから、もっと高い防波堤を建てよう」みたいな、自然と対立して支配しようという発想が出たりもする。

あらゆる分野で目覚ましい技術革新が進むいま、クローンや遺伝子操作が開発されて賛否両論が起きたときのように、「踏み込んではいけないような気がする領域」に踏み込むときが、またくるかもしれません。

この世に初めて出てきたものを論理的に可否判断することは難しいかもしれません。それでも、自然に触れ、自然を敬い畏れる気持ちを持っていたら、「なんかヤバイ」っていう感覚が保てるのでは? という気がするんです。

杉山さんがそう話すのは、日々の「〜したい」を、コントロールし続けてきたからかもしれない。

「〜すべき」は、必要だ。「〜したい」からこそ「〜すべき」が生まれる。「より住みやすい社会にしたい」……社会を良くしてきたモチベーションも、同じなはず。

ただ、それが「〜すべき」だけになったとき、根底にあったはずの「〜したい」という純粋な思いが、土深く埋もれて、分解して消えていってしまうのかもしれない。

「花って捨てるのが心苦しい」と話すと、「食べ物みたいに身体の中に取り込めないから捨てざるをえないものだけど、視覚やや嗅覚、触覚を通じて取り込んでるものが必ずある。だから感謝して捨てればいいんじゃないかな」と、杉山さん。

でもそれを肥料に変えて、咲かせた杉山さんの花は、とても大きくて力強い。

子どもももうすぐ19歳。専門学校に進学したばかりという中で、全く新しい道を進むことに、心配がないではない。

コンサルと違って、原価が流動的なので、ビジネスの見通しが立ちにくいというのは、難しさを感じるところです。でも、ダメでも大丈夫って思える。いまがいちばん楽しいです。

杉山さんの「装花TOKYO」としての作品。

ちなみに、杉山さんの大きな「好き」は、もう一つある。「盆踊り」だ。

舞台芸術とは違って人に観てもらうためではなく、個人の心と人との和のために踊る盆踊りに惹かれていった。

いま、月2回の頻度でお稽古に参加し、東京の日枝神社や岐阜の郡上踊りなど、ひと夏で20回ほど会場に足を運ぶ。

今年はドイツ・ベルリンで仲間とともに盆踊り大会の開催にも携わった。

(左)2016年に参加した、築地本願寺納涼盆踊り大会の風景。(右)2017年に参加した日枝神社・山王祭納涼大会での一コマ。白浜音頭を踊った。

お祭りって、人それぞれの役割や居場所があって成り立っているもの。会場や道具を準備する人、お囃子をする人、お神輿を担ぐ人。振る舞いのお料理を作ってくれたり、裏でみんなをサポートしてくれる人。社会だって、年配の方しかできないこと、男性しかできないこと、自分じゃとてもできないことがあるからこそ、周囲への尊敬の気持ちが生まれたり、互いの個性を生かし合うことができるんだということに気づかせてくれます。

誰かの花が開くことで、また誰かの花も生かすことができる。世界とはもしかしたら、一人ひとりの花が繚乱に咲く、花束なのかもしれないと、杉山さんの言葉に思わされる。

これから杉山さんがやりたいのは、花のフォトエッセイや、異業種のクリエイター仲間との作品づくり。ほかにも、企業のオフィススペースに花を飾りたいという。「花はゆとりとやる気を生んでくれる。社員の方が花に触れて心が癒やされて、気分良く働けたらいいな」と、杉山さんは話す。

装花TOKYO

【atelier address】〒156-0043 東京都世田谷区松原1-41-7 2F

【website】https://www.sokatokyo.com/
【instagram】@karin_sugiyama

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