肌に沿う平面のフォルム、宙を舞う立体デザイン……「PENTA(ペンタ)」のジュエリーは、身につける者に寄り添い、ときに探究心を刺激する。躍動感あるエネルギッシュなカラーパレットは、デザイナーの人柄を映し出しているかのようだ。
そんな生命力溢れるジュエリーを創り出すのは、刺繍家のFUJI TATE P(フジタテペ)氏。
FUJI TATE P
「PENTA」クリエイティブディレクター。古典にとらわれず、現代のモダンなライフスタイルに提案を行う刺繍家。さまざまなクリエイターたちが集う「パールマンション」内にあるアトリエを晴れの日の昼下がりに訪問。
彼が「CRAFT AID(クラフトエイド)」のボランティアデザイナーとなったのは、2014年春のこと。「CRAFT AID」は、公益社団法人 シャンティ国際ボランティア会が運営するフェアトレード事業だ。タイ・ラオス・カンボジア・アフガニスタン・ミャンマーの国々で、女性が子どもの教育資金を得ることを目的に手仕事の製品を展開している。商品を作っているのは少数民族や戦争で傷ついた人々、スラム街での生活を余儀なくされている人々だ。
デザイナーとして現場に通う彼の活動と、その背後にある思いについて話を聞いた。
作り手のクリエイティビティを引き出す
この赤いモコモコの装飾は、ほかにもミニチュア化し、キーホルダーとして商品化した。現在、「CRAFT AID」の人気アイテムの一つとなっている。
たいへん大きな反響をいただいていますが、作り手のみなさんも、売上が好調なのが嬉しかったようで、やる気満々なんです。その後も、再発注するたびにどんどんクオリティが上げています。
「作り手の意欲の高さをビリビリと感じる」と話すFUJI TATE P氏。生産者スタッフが自ら考えた新色サンプルを突然渡されたり、「サンプルとして1個送ってほしい」と頼んでも、「もう50個作ったからよろしく!」と返されることもあるという。
生産者のみなさんが自分たちで考えた新製品のサンプルを見せてくれることもあります。僕が新製品のアイディアを話すときに、「サンプルを作らせてくれ」と主体的に関わってくれる人も増えてきて。目をキラっとさせた人たちと一緒に仕事をやれるのはすごく楽しいですね。
売上げと作り手のモチベーションの好循環が実現するフェアトレードビジネスはそう多くない。しかし、「CRAFT AID」の現場のクリエイティブな空気は商品のラインナップや質の向上を生み、売上実績に向上につながっているという。
彼らは日常的に刺繍をしています。「どうせなら新しいことをやってみたい」という思いがあるようで、制作を重ねるごとに技術を上げていたり、アイディアを持って制作に取り組む方も多いです。彼らはプロフェッショナルであり、アーティストなんですよね。
子どもたちの未来を見据えた継続的な取り組み
FUJI TATE P氏は、定期的にチェンマイ郊外にある児童養護施設「希望の家」へも足を運ぶ。「希望の家」は、麻薬や貧困などで親を失ったタイ山岳民族の子供たちを保護し、自立を支援している。
タイに暮らす山岳民族はタイ全体の人口の10%。孤児であること以上に、山岳民族であるという事実が大きなハンディとなるのが実情だ。18歳になれば施設を後にしなければならないにもかかわらず、その後の就職先が安定していないケースがほとんどなのだという。
この状況を改善できないかと考えて、「希望の家」ではアクセサリー制作のワークショップを運営しています。
彼らはもともと山岳民族。本来自分たちが受け継いできた技術を生かした生活の方法もあります。しかし「希望の家」に暮らす子どもたちは、技術を習得する機会すらなかった。
ワークショップで作ったアクセサリーは、日本で販売し、収益の一部を施設の運営費としている。いずれは18歳になり施設を出た子どもたちと、仕事ができれば、というビジョンを持つ。
アクセサリー製作が、子どもたちの将来の選択肢の一つになったら良い。その環境と体制をつくるるために、継続的に訪れています。
「ものづくりを通じて、人をわくわくさせたい」
最後に、今後デザイナーとしてどうありたいかを尋ねた。
ものをつくるとは、エネルギーを消費することです。物流はもちろん、人が「つくる」行為もエネルギーを使っていると言えます。極論、ものなんて作らなくてもいいとすら思うこともあります。
デザイナーとして食べていかなくてはならない以上、せめて「意味あるものづくり」をしたい。「CRAFT AID」と社会貢献活動をすることも、「PENTA」でこれまで世の中になかったデザインでビーズの価値を上げることも、そんな思いの一環です。
ものをつくることに対して意味を持たせていきたい。「PENTA」のアクセサリーは、まわりの人の興味を惹くことが多いようで、コミュニケーションツールとして使ってもらえればいいなと思って作り続けています。
いまは、ものづくりがどのように人とのコミュニケーションを生み出すか、ということに関心があるとも。「ものではなく、『体験』を生み出す方向に移行していくのかもしれない」と、展望を語る。
ミュージシャンがライブ会場で観客と一体となり、一つの空間をつくりあげているのがうらやましくなることがあります。ご飯をみんなで食べるような、時間をシェアするような体験。僕がやっているワークショップも、そういう体験を生み出す行為だと思ってやっています。
誰かのわくわくした顔を見るのがなによりも嬉しい。今後も創作の取り組みの幅を広げながら、そうした笑顔を生み出すものを手がけていきたいと思っています。
周囲への強い愛情と、そこから生まれるエンターテイナー性を感じさせるFUJI TATE P氏。ものから場や時間へとアプローチの手段を広げる彼が、今後「CRAFT AID」でどのような活動を展開していくのか、今後も注目したい。
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