広島を皮切りに全国で開催され、人気を高めているワークショップ「NPWの学校」。「NPW」とは、「ヌメ革パッチワーク」のことで、文字どおりメーカーで余った多様な色・かたちの革端切れをパッチワークする。使うのは、ハサミと金槌だけ。深く吟味せずに、手に取った革を順につなぎ合わせて自分だけのレザーバッグを作るというものだ。
主催するのは、広島市の中心地でセレクトショップを11年経営していたふるもとひろし。店を運営する中で、革の靴や鞄の職人・曽田耕の作品シリーズ「NPW」に出会い、店を畳むことを決意。曽田から専任講師の認定を受け、2014年からワークショップ講師として新しい一歩を踏み出した。
ワークショップは常に満員御礼。これまで10回以上開催し、延べ100名が参加。リピーターも多い。口コミで広まり、開催のリクエストは全国で後を絶たない。その理由は、「NPW」に、日々の暮らしでは体感しにくいニュートラルなリズム感で作業に没頭できることじゃないか、というふるもと。そのリズム感とはなんなのか。ふるもとの店舗創業当時からの付き合いになる曽田が語り合った。
「NPW的」なリズム感がある
ふるもと: ワークショップでは、曽田さんがおっしゃったことーー「材はあるもの、技術は身の丈、実作業は無思考でスピーディーに」っていうのをお客さんにも言うんですけど、みなさんものすごく満足した良い笑顔になって帰って行かれるんです。考えないで手を動かして、その瞬間のリズムに身を委ねるのが、きっとすごく気持ち良いんだと思うんです。
曽田: いま、日々目にするものは誰かがデザインしたものなんだけど、残念なことにうまく行っていないものが多いように思うんだよね。素材、色、加工、パッケージ……なんでも、いっしょうけんめい考え過ぎちゃってるっていうのかな。手近なものを選ぶ。一発で決める。もうそれで充分。そう思って自分で実践してみたのが「NPW」だからね。
ふるもと: 「NPW」を作るときの感覚って、生活全般に及ぶことだと思うんですよ。例えば、物事の決まり方。やりとりの流れが悪くてスムーズに進まない、なんか互いに不足があって無理しないといけない……そんなリズムが悪いときって、だいたいイベントもうまく行かない。
曽田: 徒労におわるよね。細かいことを気にし過ぎて、良いリズムを捨ててしまってる。例えば、契約書っていうシステムが良くないと思ってるんだけど、あれは時間ばっかりかかって、しかも実際の場で機能しないことがほとんど。リズムを作るには、ある程度の思い切りが必要で、そこで必要なのは相手やものごとへの信頼じゃないかな。信頼関係があればハプングがあっても、乗り越えながら逆にプラスに作用してくれる。
ふるもと: 意識して「NPW的」にしてるときありますよ。飲みに行くときも、お店を選ばなくなったんです。例えば友人や大事な人と飲んでて、2軒目行こうよってなったときも、離れてて美味しいところに行くよりは、すぐ横のファミレス選んじゃう。移動してる間に盛り上がってた雰囲気が落ち着いちゃうときってありますよね。でもすぐ隣に移動するだけだったら、二人の間のリズムは盛り上がったままだから、トータルだとそっちのほうが楽しい時間を過ごせる。だから、お店をあまり無理に選ばなくなりました。もっと流れに任せるというか。
曽田: デートでファミレスはどうかと思うけど(笑)。でも大事なのって、いろんなピースを認めることだよね。それぞれに良い面がある。僕が「NPW」を作るとき、皮を新しく買わなかったのも、端切れは買おうったって買えない材料だなって思ったから。物事のポジティブな側面を選ぶっていうのは意識してたいよね。
マーケティングもファッションも、現代のスピードに追いつけない
ふるもと: ワークショップでも、「これ、好きじゃないな」って端切れを試しに当ててみると、なんかうまくいく。切りすぎたりしたときも「その間違えた部分がお気に入りのポイントになるから直さなくてもいいですよ」って言うんです。そしたら、本当にそのとおりになるんですよね。ミスがデザインになっちゃう。
曽田: 単純に「受け入れる」ことだよね。その瞬間は間違えた、失敗した、みたいに思うかもしれないけど、実はそれが最良の結果に自然となっている。そんな経験が何度も積み重なってくると、「心配無用!」という気分が強くなる。
ふるもと: 「気に入らないから直す! 気に入るまでひたすら試す!」っていう作家・デザイナーさんも多いですけど、「NPW」は、その対極にある。その奔放で挑戦的な感じが、まさにアートだと感じるんですよ。教育にもぴったりの授業になると思います。
曽田: いままで、アートも嫌いだったんですよ。だけど「アートっていうのは、個人的な未来のカタチ」っていう言い方をした人がいたんです。個人的な独断と偏見で、間違ってるかもしれないけれど「こうだ!」って提示する。いまは受け入れられないものでも、後から受け入れられるもの、そのいちばん先っぽを、無責任に瞬時に表明できるのがアートなんだって、だんだん分かってきました。アートだと思いますよ。判断に時間が掛かるマーケティングもデザインもファッションも、現代のスピードにはついて行けていないと思いますから。
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