7月、ファッション業界で働く女性のキャリア開発を支援する団体、一般社団法人WEF(ウィメンズ・エンパワメント・イン・ファッション)が活動を開始。ファッション業界の女性リーダーを育てるという。ファッション業界で、女性が持つしなやかな能力をいかんなく発揮できるようにしたいと話す会長(代表理事)の尾原蓉子氏に、同法人の背景やビジョンを聞いた。そのメッセージは、キャリアのみならず、広く女性に向けたエールでもあった。
ーーまず、ファッション業界における働く女性の支援をしようと思ったのはなぜでしょう?
一般社団法人WEF(以下、WEF)は、アパレルに限らずビューティやホームも含む、広義のライフスタイル産業で働く女性の支援をしていきます。この産業は、顧客の80%、働く人の70%が女性。しかし、女性のリーダーが非常に少ないのです。
女性は感受性豊かで、おしゃれも好きですし、細かい作業も得意。女性のきめ細やかさやコミュニケーション力は、教育やお客さま対応、CRMといったことはもちろん、社会への感度が高いのでCSRにも向いていると感じます。経営のマインドがある女性なら、人事にもマネジメントにも向いていると思います。これらにとどまらず、女性が活躍できる領域はたくさんあり、商品企画やマーケティングなど、いずれもプロフェッショナル性を要する専門職でもあります。
ファッション業界のみならず、今後のグローバル競争の中では、各領域に専門性のあるプロの仕事が必要です。そこで、女性の良さを生かして戦略的に登用することで、企業にも大きなメリットが生まれます。
そんな中、ファッション産業には女性が活躍できる領域が特に多くあるのに、他の産業より意思決定のポストに女性のリーダーがいないというのがすごく残念だと思ったのです。
ーーファッション産業のみならず、世界全体で女性のリーダーが少ないことが問題視され始めています。グローバルに活躍してこられた尾原さんから見て、日本ならではの傾向はありますか?
概して女性は自己評価が低い傾向がありますが、海外と比べても日本の女性は控えめだと思います。
それにはまず、文化的な背景があるでしょう。「女性は控えめなほうが良い」と、日本社会全体が思っている傾向がありました。いまもそれを引きずっていると思います。
次に、一般的な多くの日本女性は、対等に交渉して意思決定をする経験に乏しいことがあると思います。誰かが意思決定をするのをそばでアシストする仕事が中心で、責任者になった経験がありません。取り組むべき課題の当事者になっていないんです。
男女問わず、この「当事者力」というのが今後はすごく大事です。「この問題は自分が担当しているんだ」という「オーナーシップ」の意識を持ってコミットする。この意識があれば、問題に対処する立場が変わり、自然とコミットしたくなると思います。
ーーWEFでは「コミットする」女性を増やすことで、管理職のみならず「リーダー」になる女性を増やすと掲げていますが、リーダーとはいったいどういう存在なのでしょう?
「リーダーになろう」というと、みながみな「課長や部長などの役付にならなきゃいけない」と言っているのではありません。肩書を持たなくても、プロジェクトや新規事業などでその仕事をリードできる人になれば、新しいことができ、自分の意思で決定ができます。
しかしさらにいえば、一生を掛けてどういう生活・仕事をしていきたいのかーーそこから逆算して、自ら「選択」をし、自分の人生を自分でリードする人のことです。プライベートと両立しながら、ほどよく仕事したい人はそうすればいいですし、「専業主婦になりたい!」という人は、働かなくたって良いんです。重要なのは、自分が自分の人生の舵取りをしているんだという自覚です。
そのためにはまず、長期的に自分の人生を見ているかが一つのポイントです。自分の人生を長いスパンで見て、柔軟性を持って思い描き、そのために必要な選択をすること。WEFでは、ありたい自分のゴールをイメージして、仕事にどう取り組むかを考えるセッションを行います。
どの学校に行くか、結婚後に仕事を続けるか、パートナーの転勤についていくか、今日のごはんは何にするか……。日々の小さなことから大きなことまで、一つひとつが「意思決定」。そこから次のステージに変わりますね。それをいつも「お任せします」と、人に譲っているのでは、人の基準で自分の人生を生きることになります。後になって「あのとき、あの学校行っておけばよかった」「あの仕事を受けておけばよかった」と思うことばかりでは、つまらないと思うんです。
ーーキャリアのみならず、コミットメントとは、広く自分の人生・生活についていえることなのですね。
そうです。日々の小さいことでもコミットメントはできます。友人と旅行に行く計画を立てる場面でもできます。
例えば、友人が提案したプランがとてもつまらないとしましょう。ストレートに伝えるかどうかは別として「そのプランはつまらない」と伝えたら、「だったら、あなたが計画を立ててよ」と言われたとします。そのとき、あなたならどうしますか? 「やってって言うからやってあげた」と、おざなりに計画を立てて、そこそこ楽しい計画を組み立てますか? それとも、「私に任せて!」と、しっかりリサーチしてとことん楽しめる計画を目指しますか? この「私に任せて!」と言えるかどうかーーこれがコミットメントです。
「失敗したらやだな」と思うと、きりがありません。そんなことは、人生にいっぱいあります。それでも勇気を持って、「本当に楽しかった!」といえる旅行を目指し、「ここに行こう!」って言えることがリーダーシップであり、主体性を持って向き合い、取り組むということです。
ーーWEFでは、女性側へはそのためのセミナーやセッション、シンポジウムを開催されますね。逆に、企業側に対してはどのようにアプローチしていきますか?
企業に対しては、戦略的に女性を活用していきましょう、と企業のトップの方々に発信していきます。それが会社にとってプラスになることを説明していきます。
中間管理職の方々には、女性の特徴を伝えながら女性を有効活用してほしいと発信します。「女だから」といって気を使いすぎず、個人として向き合い、その人にとって働きやすい環境を作ってやってほしい、と伝えていきます。時間的・空間的制約を取っ払わないと、いくら女性がコミットしたくても難しいシーンが多々ありますから。
ーーファッション業界は、実に多様なバックグラウンドを持つ女性が集まっており、キャリアパスも多様です。自分がどういうふうになりたいかイメージを持ちづらい、ということもありそうです。
WEFでは、ロールモデルとなる人物をどんどん紹介していきたいと思っています。ロールモデルはすごく重要です。たまに会っても「あんなふうにはなれない」と思ってしまうほど「超・すごい人」だったり、「そこまでやりたくない」というほど「超・頑張った人」だったりしますよね。でも、ロールモデルは、引き出せばたくさんあります。「あんなふうにやればいいんだ」「これなら頑張れる」「こんな外部のリソースを活用すればいいんだ」と、思っていただけるようないろんな事例を紹介して、多様な道やヒントを紹介していきたいと思っています。
ーー他人の基準で生き、他人の責任で仕事をするより、自分の責任と選択でコミットしていくのには、勇気がいりますね。
私の「リーダーシップの5条件」というのがあります。それは、①ヴィジョンがあること、②人の話をきくことができること、③自分の考えをコミュニケートできること、④人をインスパイアできること、そして⑤勇気があること、なんです。結局、勇気がある人でないと、人をリードできないのです。でも、そこで本人も成長するし、十中八九コミットしたことは成功すると思いますよ。